アメリカ法律力 第8回
『アメリカの訴訟ホールド』

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今回の動画は、訴訟当事者に課せられるLitigation Hold(訴訟ホールド)の義務とはどう言ったものかを解説をしています。

Litigation Holdって何?と言う経営者やリーダーの方もいるかもしれません。このLitigation Holdは、アメリカの訴訟制度においては大切なコンセプトとなるので、この機会に是非覚えておきましょう!

アメリカ法律力 
第8回

『アメリカの
​  訴訟ホールド』

 

US Legal Aid for Leaders、どうも、アメリカ弁護士の内藤です。よろしくお願いします。

本日の動画は、訴訟当事者に課せられるLitigation Hold(訴訟ホールド)の義務とはどう言ったものかを解説をしていきたいと思います。

Litigation Holdって何?聞いたことないな〜と言う経営者やリーダーの方もいるかもしれません。このLitigation Hold、アメリカの訴訟制度においては大切なコンセプトとなるので、この機会に是非覚えておいてください。

まず、アメリカの民事訴訟では、トライアル(事実審理)前に、「ディスカバリー」と言って原告と被告が訴訟に関連する情報・証拠をお互いに開示する手続きがあります。

 

<ディスカバリー制度に関してはこちらの動画をご覧ください>

 

ディスカバリー制度は、訴訟当事者が争点を絞り込み紛争をできるだけ早く解決する上でとても大切な手続きですが、このディスカバリーが機能するためには、訴訟当事者が訴訟に関連する証拠を、しっかり「保全している」ことが前提となります。

 

この様に、訴訟において重要な証拠の保全義務が発生していて、spoliation(証拠隠滅)が起きないよう注意しなければならない状況にあること、これを「Litigation Hold」と言います。

 

Litigation Holdの状況になっているにもかかわらず、ある企業が訴訟のための証拠を破棄・隠滅する、或いはずさんな管理によって証拠を消失してしまうと、その企業には裁判所から厳しい制裁が課せられることになるので注意しなければなりません。

 

この制裁は、裁判所の裁量によって決められることになりますが、意図的な証拠の破棄や隠滅があったと判断された場合、「法定侮辱行為」として民事制裁金や、相手の裁判費用を負担するなどのペナルティが課せられます。

または、(1)裁判で使える証拠・証人を制限される、(2)提出できない証拠については、自分にとって不利な推定または相手にとって有利な推定がされる、など裁判を進めていく上でとても不利な状況に追い込まれると言う制裁も存在します。

そして最悪なシナリオとしては、相手の請求が認められると言うDefault Judgement(欠席裁判)や、敗訴した際に懲罰的賠償金の支払いを命じられることもある為、Litigation Holdはかなりシリアスな問題で、企業は積極的に対応していく必要があるのです。

 

では、Litigation Holdの積極的な対応としてどのような点に注意していくべきか?経営者やリーダーである皆さんが覚えておくべき6つのチェック項目を、本日の動画では紹介していきたいと思います。

 

チェック項目1

Litigation Holdは、合理的に訴訟が予測できるタイミングで発生する。

 

Litigation Holdは訴訟に巻き込まれた時だけに発生するものではありません。訴訟提起よりも前の段階、たとえば、契約の不履行があったとか、特許権や商標権に対するCease & Desist Letter(侵害停止要求状)を受け取ったなど、訴訟になるかもしれないと合理的に判断できる状況が生まれた場合は、その事件に関連する資料・情報の徹底した保全義務が発生することになります。

何を持って「合理的に訴訟が予測できる」状況なのかを判断するのは簡単ではないですが、皆さんがある案件について外部弁護士に相談した場合、その相談をした段階からLitigation Holdの要請をされる可能性があると予測するのが、一つのタイミングの図り方と言えます。

 

チェック項目2

Litigation Hold(証拠保全)レターという通知を受け取った後の対応が大切。

 

証拠保全しなければならない状況が発生した段階で、Litigation Holdレターと言って、具体的にどのような文書・情報をなぜ保護しなければならないかが記載された通知書を受け取ることになります。一般的に、このLitigation Holdの通知は、皆さんの弁護士が作成します。

 

Litigation Holdレターは、訴訟に関連する証拠を保有する可能性がある全ての人に発行されます。証拠を保有する人達をcustodianと言いますが、このcustodianを特定するために、皆さんは、訴訟に関連する証拠がどの場所または部署にあるのかを把握しておく必要があります。

 

また、Litigation Holdにおいて保全する証拠は、全てそのデータをそのままの形で残しておくことになります。ですので、証拠がどのようなフォーマットなのかを確認し、保全の対策を整えておくかなければなりません。

 

そしてLitigation Holdの段階で保全する証拠は、「ディスカバリーの時に開示できない」と言う事態が起きないよう保全の範囲をできるだけ広く捉えることが重要となります。

 

チェック項目3

会社が保有する電子情報の取扱いには特に注意し、Eディスカバリー対応をする。

 

近年、企業が保有する資料・情報は紙から電子化されていて、この電子情報をelectronically stored information、略してESIと言います。電子メールやテキストなどのESIもディスカバリーの対象として開示していくことになり、この手続きはEディスカバリーと呼ばれます。Eディスカバリーをどれだけ有効にできるかは訴訟を進めていく上で重要なポイントとなるため、Litigation Holdの段階から、ESIの保全対策を万全にしていきます。

たとえば、紙の証拠とは異なり、ESIは改変・消去が容易であると言う性質をしっかり理解し、不用意な破棄がないようデータのバックアップを取ることが大切です。

 

Litigation Hold時のESIについては、社内ITはもちろん、必要に応じて外部の専門業者に依頼し、積極的に保全していきましょう。

 

チェック項目4

Litigation Holdを進める上で社内の文書管理規定(Document Retention Policy)を確認し、必要に応じて調整を図る。

 

アメリカでは、一定期間、文書の保全が法律において求められているものがあります。たとえば、会社の基本定款(Articles of incorporation)は、会社の存続期間はもちろん、会社の解散後も一定期間の間はこの文章を保管しておく必要があります。同様に、オファーレターなど採用時に交わした書類や、パフォーマンスレビューなどが入っている従業員のファイルは、当該従業員の雇用期間はもちろん、雇用関係が終了した後も、州法に従って保存しておくことになります。

 

DRPには、この様に法律で定められる文章保全の規定がされていますが、それと同時に、ESIの自動削除や上書きシステムなど文章の破棄に関するルールもDocument Retention Policyには記載されています。

 

Document Retention Policyが策定されていることは、その会社が日頃から文章の保全・消去に注意し努めていることを示す一つの証拠となるわけです。他方、DRPが会社に存在せずディスカバリーにて証拠が提出できない場合、そのずさんな管理体制を指摘され、証拠が「意図的に消去された」ものと判断されるリスクがあるので注意しなければなりません。

連邦民事訴訟規則(FRCP)の37(e)にはセーフ・ハーバー規定が設定されていて、DRPに従って消去されたデータは、それがディスカバリーにて開示できなくても証拠隠滅とはならない。要するに、その様なことがあっても制裁は受けないと定めています。DRPは、ESIの膨大化を避ける、無駄な情報や証拠は残さないようにする上で有用なシステムとなっています。

 

今お話ししたセーフハーバー規定は、Litigation Hold前の証拠のとりあつかいについてですが、Litigation Hold後は、訴訟が終了するまでDRPの規定を調整することが求められるので注意してください。たとえば、DRPにおいてESIなどの自動削除機能や上書き機能が設定されている場合は、これを放置せずシステムの停止をしなければなりません。システムを停止せず、証拠を破棄してしまうとLitigation Holdを意図的に無視したとして制裁の対象となってしまいます。

 

チェック項目5

Custodianの中でも、訴訟に深く関連するキーパーソンを特定し、証拠の隠滅や改ざんが行われない様に対策をしておく。

 

残念ながら、従業員の、訴訟やLitigation Holdに対する意識はあまり高いものではないことから、保全を従業員にまる投げすることは避けなければなりません。特に、訴訟に深く関連している従業員(キーパーソン)は、証拠を意図的に隠滅する可能性があります。たとえば、セクシャルハラスメントの嫌疑がかけられた場合、当該従業員は、自分に不利な証拠となるEメールやテキストメッセージを消去してしまうことが考えられます。この様な状況においては、キーパーソンによる隠滅行為のリスクは容易に想定できることから、当該従業員のデータはバックアップを取ると言った合理的な措置が会社に求められます。この様な措置を取らず、結果キーパーソンの証拠を開示できなくなってしまった場合は、Litigation Holdに対する会社のずさんさが責められることとなり、厳しい制裁の対象とされるので注意してください。

 

従業員の意図的な隠滅は、それを防止できない会社の責任とされる傾向がある点を、経営者やリーダーの皆さんには意識してもらい、Litigation Holdの保全義務を従業員に委ねるのはやめましょう。

 

チェック項目6

Litigation Holdの注意喚起を定期的に行い、保全義務の徹底を図る。

 

最後のチェック項目となります。

Litigation Holdレターを、Custodianに一度通知をしただけでは保全義務をしっかり守っているとは言えません。アメリカの民事訴訟では、Litigation HoldからディスカバリーのRequests for Productionにて証拠を開示するまで、結構な時間を要することになります。そうなると、custodianの保全義務の意識も弱まることになるので、再度Litigation Holdレターを出すなどの注意喚起が必要となります。

Litigation Hold期間は、会社が保全義務を遵守し監督すること。証拠隠滅を防止する為の合理的措置を徹底することが求められています。

 

いかがだったでしょうか?本日は、Litigation Holdに関して、リーダーの皆さんに知っておいてもらいたいチェック項目6つを見ていきました。Litigation Holdは、アメリカの民事訴訟において公平な裁判をする上でとても重要な手続きであり、だからこそ、その違反行為についてはかなり厳しい制裁が用意されていることになります。

 

会社が保有するデータのほとんどが電子化されている近年では、Litigation Hold時に会社がデータの保全を監視し隠滅や改ざんの防止を徹底することがより強く求められています。このようにLitigation Holdの重要性を意識することがリーダーに求められていると言うことを覚えておいていただければと思います。

本日の動画が少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。関連動画もぜひご覧ください。

では、今日はこの辺で。ありがとうございました!