アメリカ法律力 第7回
『アメリカのディスカバリー制度:基礎編』

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ディスカバリー制度とは、訴訟当事者が、トライアル(事実審理)前に、訴訟に関連する情報・証拠の開示を受ける制度です。もっというと、相手が持っている証拠を開示するよう要求できる手続きのことをディスカバリー制度と言います。

今回の動画は、アメリカにおけるディスカバリー制度の基礎編として、合衆国連邦地方裁判所の民事訴訟における開示制度について解説をしていきます。

アメリカ法律力 
第7回

『アメリカのディスカバリー制度:基礎編』
 

US Legal Aid for Leaders、どうも、アメリカ弁護士の内藤です。よろしくお願いします。

本日の動画は、アメリカにおけるディスカバリー制度の基礎編として、合衆国連邦地方裁判所の民事訴訟における開示制度について解説をしていきます。

 

<本日のテーマ>​

 

ディスカバリー制度とは?
ディスカバリー制度の必要性

ディスカバリー制度の特徴

ディスカバリー手続きの流れ

ディスカバリーの範囲

 

では、はじめていきましょう。                                                                                                                

<ディスカバリー制度とは?>

ディスカバリー制度とは、訴訟当事者が、トライアル(事実審理)前に、訴訟に関連する情報・証拠の開示を受ける制度です。もっというと、相手が持っている証拠を開示するよう要求できる手続きのことをディスカバリー制度と言います。

 

ディスカバリー制度は、1938年に連邦民事訴訟規則(FRCP:Federal Rules of Civil Procedures)において制定され、ディスカバリーの詳しいルールは、FRCPの26条から37条に規定されています。

ちなみに、州の裁判所にはその州独自のディスカバリー制度が存在しますが、基本的に、州のルールは、今日解説をする連邦民事規則の規定をモデルとしています。

 

<ディスカバリー制度の必要性>                  

アメリカの連邦民事訴訟の手続きは、大きく分けて、プリーディング(訴答)、ディスカバリー、トライアル、判決という4つの流れになっています。

 

*プリーディングについてなど、民事訴訟の基本的単語の説明については、前回の動画を参照。

https://www.youtube.com/watch?v=WbrMBtxvtRE&t=4s

 

連邦民事訴訟のプリーディングは、「Notice Pleading」と呼ばれ、たとえば訴状においては、原告の請求(Claim)や求める救済が何かを被告に通知(Notice)するという機能が果たされていれば良いとされています。

アメリカの「訴状」は、請求の根拠や裏付けなどが書かれていない簡単なもので、もしプリーディングから直接トライアルに進んでしまうようなことがあると、訴訟当事者が訴訟の事実関係を把握できず、争点の絞りこみが図れていない状態で裁判をすることになり、その進行は決してスムーズなものとは言えません。

また、訴訟の相手がどのような証拠を持っているか把握していないと、トライアルの場で「え、こんな証人がいて、そんな証言がされるなんて・・・」というサプライズが起こったりします。こうなると、事件の実体というよりは裁判テクニックで勝敗が決まってしまうことになり、なんとなくフェアではない感じがしますよね。

 

そこで、プリーディングとトライアルの間にディスカバリーという手続きをはさむことで、1)真実発見と2)紛争解決という2つの目的をしっかり担保し、裁判をより効果的で適正なものとしているわけです。

 

「真実発見」と「紛争解決」という2つの目的はどちらも大切ですが、この2つを同時に達成する仕組みを作るのは困難です。「紛争解決」という面では、トライアル前に争点形成をし、結果を予測させることで、当事者間で和解をしていく環境を作る。その環境づくりこそが、事件の真実は何かということよりも重視されるわけです。

 

他方、「真実発見」を重視するのであれば、和解なんかではなく、最後まで裁判をやりましょう、ということになります。

ただし、連邦民事訴訟のケースは、90%以上が和解で決着がつくと言われています。要するにトライアルまで行くのはほんの数%しかないのです。実際、多くのケースがディスカバリーの前後の段階で和解となっています。この事実からも分かるように、ディスカバリーは「真実発見」のためたけでなく、どちらかというと、「紛争解決」をより重視し、和解を促進するためにある手続きとなっています。

 

<ディスカバリー制度の特徴>

ディスカバリー制度がどういったものかを見る前に、この制度の特徴について、2点ほど触れておきたいと思います。

 

アメリカの民事訴訟は、事件の解明・解決は、裁判所ではなく訴訟当事者が主体的に行うべきというAdversary System(当事者主義・当事者対抗主義)が基本です。この考えは、特にディスカバリー制度では顕著です。ディスカバリーにおける裁判所の役割は限定的で、裁判所はこの制度が濫用されるのを防ぐための管理・監督のみを行います。

いつ、どこで、どのようにディスカバリーをマネジメントするかは、あくまで訴訟当事者が行わなければなりません。

 

ディスカバリーがうまく進行しない場合は、裁判官の判断を仰ぐことになりますが、実はこれ、裁判官に嫌われるリスクがあります。たとえば、あるフロリダのケースでは、ディスカバリーの進行に当事者が合意できず裁判官に頼ったところ、「どうするかはジャンケンで決めろ」と言われちゃいました。このように、連邦裁判所は特にディスカバリーに関与したがらなく、ディスカバリーは、当事者同士で進められる手続きである、という特徴があることを、覚えておいていてください。

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もう一つのディスカバリーの特徴は、時間、コスト、労力がとてもかかる、ということです。アメリカが訴訟大国だといわれる原因の一つが、残念ながらこのディスカバリーの手続きにあるといっても過言ではないくらい、面倒でダメージが高い制度となってしまっている現状があるのです。

 

特に近年、企業が保有するデータや情報は、紙ベースから電子情報に移行しています。もともと対面や電話で行っていた社内コミュニケーションも、現在は電子メールやテキスト、または人事評価や人材データの管理を行うソフトウェアなどを通して簡単にできるようになりました。

 

電子化により気軽なコミュニケーションができるようになり、生産性は上がりますが、気軽であるからこそ、コミュニケーションの頻度は上がります。紙ベースの頃よりも、企業がディスカバリーにおいて提示させられる情報、またしっかり保管すべき文章というのは、電子化されたことで莫大に増えてしまったのです。

 

電子情報は、ディスカバリーの分野では、英語でelectronically stored information、略してESIと呼ばれています。このESIを対象とするディスカバリーのことを、「Eディスカバリー」と言い、このEディスカバリーの対策がどれだけ有効にできるかが訴訟を進めていく上で、そして可能な限り負担を下げる意味でも重要となっています。

 

ちなみに、ディスカバリーの中心がEディスカバリー対応となったことで、FRCPもEディスカバリーに合わせルールが改正されています(2006年12月1日から施行)。

 

<ディスカバリー手続きの流れ>

では、ここからディスカバリーがどのように進められ、どういった方法によって訴訟の相手から証拠の開示を求めることができるのかを見ていきましょう。

 

ディスカバリーを行う前に、連邦民事訴訟の当事者はまず26(f) 会議といって、ディスカバリーの予定や対象を定め、開示手続きがスムーズに進行するための計画を立て、協議を行うことが義務付けられています。

*26(f) 会議は、提訴後早期に、またはトライアル前の手続きや予定を決めるPretrial会議(FRCP 16)の21日前までには開催する。

 

そして、26(f)会議から14日以内にイニシャル・ディスクロージャーの手続きを行うことになります。「うん?ディスクロージャーとディスカバリーって何が違うの?」と思われた方、鋭いです。DisclosureとDiscoveryは、英語の意味はどちらも「開示」となり似ていますが、訴訟手続きにおいては、この2つの手続きはニュアンスが少し異なります。

 

まず、イニシャル・ディスクロージャーは、Required Disclosuresと呼ばれ、相手から要求されなくても、自発的に開示しなければならない情報・証拠です。他方、ディスカバリーは、相手から要求をされて、強制的に開示させられる情報・証拠です。

 

また、後ほど詳しく見ますが、ディスカバリーは自分に有利・不利な証拠に関係なく、相手から求められた場合は、開示しなければならない可能性があります。対して、イニシャル・ディスクロージャーでは、FRCP26(a)(1)(A)(ii)には、このように書かれています。

 

(ii) a copy—or a description by category and location—of all documents, electronically stored information, and tangible things that the disclosing party has in its possession, custody, or control and may use to support its claims or defenses, unless the use would be solely for impeachment;

 

 

 

「may use to support its claim or defenses」という一文に注目して欲しいのですが、「自分の主張をサポートするため」の書類、ESI、有形物のコピーまたは概要を提示すると書かれています。ですから、イニシャル・ディスクロージャーでは、不利な証拠を開示させるのは訴訟相手の仕事であり、どのみちディスカバリーで開示するので、ここでは自分に有利となる情報・証拠を開示すれば良いことになります。ディスクロージャーとディスカバリーの手続きには、このような違いがあることを認識しておきましょう。

 

また、Required Disclosuresと呼ばれる手続きには、イニシャル・ディスクロージャーの他に、Expert TestimonyディスクロージャーとPretrialディスクロージャーというものがあります。

 

  • イニシャル・ディスクロージャー(FRCP26(a)(1))訴訟に関連する情報を持っている個人の特定、訴訟に関連する文書・ESI、損害賠償に関する情報、加入する賠償責任保険の情報などを自発的に開示。

  • Expert Testimonyディスクロージャー(FRCP26(a)(2))
    トライアルで使用予定の専門家証言を、トライアル期日の90日前までに開示。

  • Pretrialディスクロージャー(FRCP26(a)(3))
    トライアルで提示する証人や証拠の特定を、トライアル期日の30日前までに行う。

 

イニシャル・ディスクロージャーとして賠償責任保険の情報などを自主的に開示させる、というのは面白いのですが、和解交渉する上で、保険のある・なしというのは有効な情報となるいことに注目しましょう。これを訴訟の早い段階で、自発的開示の項目として入れていることからも、アメリカの訴訟手続きが、紛争解決、和解促進にフォーカスしているのがわかります。

 

イニシャル・ディスクロージャーを通して、争点が何かという把握ができたところで、今日の動画のテーマであるディスカバリーの手続きへと進んでいきます。 図2

 

連邦民事訴訟のケースのほとんどがディスカバリーの前後で和解しているのは、ディスカバリーを通して、ケースアセスメント(分析)ができるからです。相手の証拠を知ることで、自分たちの主張が、相手の主張に比べてどこまで強いか・弱いか訴訟の見通しが立つことになるわけです。

 

では、訴訟の見通しを立てるために、相手の証拠をどのようにして開示させるのでしょう。

 

ディスカバリーの方法は、Interrogatories(質問書)、Depositions(証言録取書?)、Request for Production(提出の要求)、Physical and mental examination(身体および精神の検査)、Requests for Admission(自白の要求)という、5つのやり方があります。

それぞれどういったものか簡単にスライドにまとめましたので、動画を止めて見ていただければと思います。

 

  1.  Interrogatories(質問書)FRCP33
    訴訟相手に質問書(基本、25問以下)を送って、宣誓がなされたかたちで回答を求める。質問書を受けてから、30日以内の回答が原則。

  2.  Depositions(証言録取書)FRCP27~32
    訴訟の当事者、事件に関する知識を持つ者に質問(一般的に口頭尋問形式で行われる)し、宣誓のうえで証言をとる。証言は、速記官による記録またはビデオ録画される。

  3.  Requests for Production(提出の要求)FRCP 34
    訴訟当事者にESIなどの書証の開示や物証の提示を求める。所有する土地または他の財産の検査もできる。第三者が持つ証拠についても、subpoena(命令状)によって開示させることが可能。

  4.  Physical and mental examination(身体および精神の検査)FRCP35
    当事者または訴訟の関係者の身体・精神の状態が争われているとき、医師による診断・検査を行う。裁判所の命令が必要。

  5.  Requests for Admission(自白の要求)FRCP36
    ディスカバリーの中で分かった事実や文書の真正について相手からの自白(承認)を求める。自白は、係争中の訴訟に限定される。​

ディスカバリーをどのような流れで行うか、決まりはないのですが、基本的にはまず質問書によって訴訟相手の主張や証拠を理解し、次に提出の要求を行い、相手の主張にはどこまで裏づけとなる証拠があるか、また相手にとって不利な情報を探します。それから、提出の要求によって見つけた相手の弱点を、証言録取を通して攻めていきます。

 

先ほどお話ししたように、ディスカバリーは、「当事者主義」を基本として進められます。ただし、例外があり、Interrogatories、Depositions、Requests for Production、Requests for Admissionについては裁判所の許可なく進められますが、Physical and mental examinationsについては、個人のプライバナシー侵害となるリスクがあることから、裁判所の命令なしでは進めることができません。

 

そして、この5種類のディスカバリーの中で、もっともリーダーの皆さんが知っておかなければならないのが「Depositions(証言録取書)」です。というのも、会社が訴訟に巻き込まれた場合、経営者である皆さんが、Deponent(供述者・証人)とされる可能性が高いからです。

 

<ディスカバリーの範囲>

では、最後にディスカバリーで相手の証拠をどこまで開示させることができるのか、ディスカバリーの範囲について見ていきましょう。

ディスカバリーの範囲については、FRCP 26(b)(1)に規定されています。

 

Scope in General. Unless otherwise limited by court order, the scope of discovery is as follows: Parties may obtain discovery regarding any nonprivileged matter that is relevant to any party's claim or defense and proportional to the needs of the case, considering the importance of the issues at stake in the action, the amount in controversy, the parties’ relative access to relevant information, the parties’ resources, the importance of the discovery in resolving the issues, and whether the burden or expense of the proposed discovery outweighs its likely benefit. Information within this scope of discovery need not be admissible in evidence to be discoverable.

 

 

まず、「relevant to any party’s claim or defense」というところに注目して下さい。「自分の主張をサポートするため」と書かれていたイニシャル・ディスクロージャーの内容と異なっていますよね。「当事者、関係者の主張にrelevant」、要するに訴訟に関連する情報・証拠は全てディスカバリーの対象となる、とても広い範囲となっているのが分かります。

それと、FRCP26(b)(1)最後の部分「Information within this scope of discovery need not be admissible in evidence to be discoverable」には、「開示は、トライアルで証拠として許容されるものに限定されない」としていて、この手続きが「相手から証拠を入手する」上でとてもパワフルなものであることが分かります。

 

ディスカバリーの範囲は、訴訟と関連性のある全ての情報・証拠となっていますが、そこに制約がないわけではありません。

FRCP26(b)(1)に「Parties may obtain discovery regarding any nonprivileged matter」と書かれているように、たとえば、弁護士と依頼者間の法律に関する秘密のコミュニケーションは、「弁護士・依頼者秘匿特権」としてディスカバリーの対象外として保護されます。

また、訴訟の準備のために作成された弁護士の思考や戦略が書かれたメモなども「ワークプロダクト」と呼ばれ、これもprivileged matterとしてディスカバリーから除外されます。

 

それと、「whether the burden or expense of the proposed discovery outweighs its likely benefit」という一文にも注目してください。「開示が訴訟にもたらす利益よりも、開示を求められた当事者にかかる負担が大きい」場合、そのような負担は不当であるとして、裁判所が開示要求を阻止することがあります。

この裁判所の命令を、Protective Orders(FRCP 26(c))と言います。これは裁判における軍資金が少ない当事者に対して、兵糧攻めではないですが、相手側が、わざと負担のかかる開示を要求するようなことがあった場合、このような嫌がらせを止めたり、また、開示によって混乱が生じる情報や、企業の競争力となる営業秘密を保護するなど、裁判官が「開示制限をすべきだ」と判断した証拠についてもディスカバリーから保護する、というものです。

 

<終わり>

いかがだったでしょうか?ディスカバリー制度は、日本にはないコンセプトなので分かりにくいかもしれません。しかし、ディスカバリーによって和解交渉が有利になるなど、訴訟の戦局が決まる要素であることから、その手続きの流れや種類についてはある程度理解しておく必要があります。

 

経営者の皆さんにディスカバリー制度を知ってもらいたい最大の理由は、ディスカバリーのルール違反に対しては、とても厳しい制裁(FRCP 37)が設定されているからです。制裁は、裁判官の裁量によって決められますが、訴訟相手の弁護士費用を負担させられたり、場合によっては法廷侮辱(contempt of court)行為とされ、罰金を科せられることもあります。

そして、ディスカバリーにおいて絶対やってはいけないのが、自分にとって不利な証拠を隠蔽・改ざんすることです。当然、こういう行為には厳しい制裁が科せられますが、それ以上に、訴訟がものすごく不利な状況に追い込まれることにもなります。

 

また、隠蔽するつもりはなくても、データ管理がずさんで、社内のDocument retention policy(文書管理規定)に従わず誤って証拠を廃棄してしまった場合も、意図的にデータを抹消したと判断されてしまう可能性があるので注意しなければなりません。

 

本日の動画は、基礎編としてディスカバリー制度のコンセプトをまとめていますが、その中で出てきた重要なキーワード、たとえば、Depositions(証言録取書)、弁護士・依頼者秘匿特権、そして今お話ししたDocument retention policy(文書管理規定)などについては、今後、動画を作っていくつもりです。

 

本日の動画が少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。

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では、今日はこの辺で。ありがとうございました!