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アメリカ法律力 第1回
『訴訟大国アメリカ』

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訴訟大国と呼ばれるアメリカは、なぜこんなにも訴訟が多いのでしょうか。この動画では、日本とアメリカにおける「訴訟」に対する感覚の違いや、訴訟が起きやすいアメリカの複雑な法律制度をわかりやすく解説しています。 

「訴訟大国アメリカ(前編)」の動画では、アメリカが訴訟大国と呼ばれる理由が、訴訟の数の多さにあることをあげ、後編ではアメリカが訴訟大国と呼ばれるもう1つの理由である、訴訟で生じるダメージの大きさと、それを助長している4つの制度についてお話をしています。

訴訟大国アメリカ(後編).png

訴訟大国
アメリカ:前編

 

All OK Project、どうも、アメリカ弁護士の内藤です。よろしくお願いします。

 

今日は、訴訟大国と呼ばれるアメリカは、なぜこんなにも訴訟が多いのかについてお話をしていきたいと思います。

 

例えば会社同士が製造委託の契約をするとします。A社は契約書どおりに商品を製造し納品したにもかかわらず、いくら請求してもB社は支払いをしてくれない。これ、実際によく起こりそうな問題ですよね。

 

また別のケースでは、従業員が突然、差別やハラスメントを主張して会社を訴えてくる。これもよく聞く問題です。このような法的トラブルが、アメリカでは訴訟にまで頻繁に発展する、というわけなんです。

 

日本では、まず当事者で解決を図るために話し合いをするが一般的だと思います。日本人にとって訴訟は、あくまで、話し合いで解決できない場合の最後の手段です。

他方、アメリカは訴訟がはじめにやってきます。日本での訴訟が白黒はっきりつける殴り合いの場であるのに対して、アメリカの訴訟は、じゃ、交渉しましょうか、試合をしますよという記者会見の発表の場みたいなものなのです。

 

先ほどの差別やハラスメントで従業員に訴えられるケースですが、従業員が会社相手に交渉するのは簡単なことではありません。そこで、裁判所、または雇用機会均等委員会(EEOC)などの行政機関は従業員よりの判断をする傾向があります。そこをうまく利用して、従業員は訴えることによってレバレッジを効かせる。要するに、自分の交渉力を上げるために訴訟をするという作戦をとります。

 

同様に、先ほどの会社間の契約の問題では、A社が支払いをしないと訴えるぞとB社を脅しても、アメリカでは全く交渉にならないことがあります。

これは、タマの入っていない鉄砲は、アメリカでは脅しにならないからです。訴えられて初めて相手が交渉のテーブルにつく。これが、アメリカの訴訟に対するスタンスとなっています。

 

実は、アメリカでは民事訴訟事件でトライアル(本審理)まで行って判決が下るのは、全体のケースの5%以下なんです。連邦裁判所の民事訴訟事件の新受件数は、だいたい28万件なので、26万件以上の事件は和解で解決していることになります。訴訟はあくまで交渉のための入口である、というアメリカの考え方がわかるデータだと思います。

 

対して日本の地方裁判所第一審新受件数は15万弱という数字があります。この数字と、アメリカの連邦裁判所の新受件数28万件を比較すると約2倍ですが、アメリカではこれに加えて州の裁判所で提訴される民事トライアル事件もあることを忘れてはいけません。州の裁判所の新受件数は、1800万件あると言われていることから、日本と比較してアメリカでどれほど訴訟が多いかわかります。

 

日本では訴訟は殴り合いの場所という意識があることから、トライアルで判決ができる割合はだいたい30%とアメリカより高くなっています。

 

アメリカと日本で訴訟に対する感覚がこうも違うか、と分かってもらえたかと思います。

アメリカでは、交渉をする手段として訴訟というカードが切られるわけです。ちょっと日本にはない感覚ですが、それだけ、アメリカでは、訴訟は身近なものであることを経営者の方は意識する必要があります。

 

アメリカの訴訟が、「和解目的」であることは理解できても、それだけでこうも訴訟は増えるのでしょうか?いくらなんでも訴訟慣れしているアメリカ人だって、できれば訴訟は避けたいでしょ?と思う方、沢山いらっしゃると思います。アメリカ人だって訴訟を好んでしたいわけではありませんよね。

 

それなのに、アメリカで訴訟が多いのは、1つ大きな問題がある、と私は思っています。

それは、アメリカの法律が分かりにくいことです。

 

以前「アメリカの法源」という動画で説明しましたが、アメリカには、憲法、制定法、行政規制、そしてコモンローという4つの法源が国レベルと州のレベルで存在します。その中でも、アメリカは判例法主義の国なので、過去の判例の蓄積によって法律が何であるかを解釈していきます。

 

法律はこうだよ、と親切に書かれていないことが多いので、法律を正確に理解するには、それなりの専門知識が必要となります。

私たちの様に毎日法律に関わっている弁護士ならいざ知らず、経営者の方達がビジネスをする上で必要となる法律は何かをフォローするのは至難の技です。

 

ですから、アメリカでは、知らないうちに法律違反をしてしまう。または法律の解釈を間違えて違反行為をすることが起きてしまうんです。その結果、訴訟に巻き込まれる機会も増えることになります。

 

私のクライアントでも、自分たちのビジネスにかかる法律をインターネットで確認したところ、連邦法しか見ずに判断してしまった。または弁護士のブログとか、そういった法律の情報を見て、そこで理解したつもりが、ニューヨークのビジネスなのに、カリフォルニア州の法律に関する記事を見ていた、というパターンがあったりします。このように自分たちのビジネスに必要な法律が何であるかを探すのは、アメリカで難しかったりするんですね。

 

また、アメリカは訴訟が多いものの、ほとんどが和解で解決しています。それは裏を返すと、多くの問題がグレーゾーンとして残っているという見方もできます。法律のグレーゾーンは、白黒がはっきりしない、明確な判例がないことが原因で生じているので、当事者はどっちが正しいのだろう、というのが正確に分かりません。お互いが自分たちは間違っていないと思うことが多くなる。なら、訴訟になっても自分たちが有利だから、訴訟してしまおう、というような状況がアメリカにはあるんです。

この様に、法律の要件や効果が見えにくいということが、アメリカで訴訟の増加につながる大きな原因になっていると私は思っています。

 

どうでしょうか?アメリカでビジネスをする日本人の経営者の方には、アメリカでなぜこんなに訴訟が多いのかという理由を知ってほしいと思います。

訴訟が多い理由は、他にも色々あります。弁護士の数が多いとか。訴訟をするコストが低いなどなど。また、忘れてならないのは、原告弁護士の存在です。原告弁護士は、訴訟大国アメリカのエンジンみたいな存在となっています。この原告弁護士については、別の動画で解説していきたいと思っています。

 

本日の動画が少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。

では、今日はこの辺で。ご視聴ありがとうございました。

訴訟大国
アメリカ:後編

 

All OK Project、どうも、アメリカ弁護士の内藤です。よろしくお願いします。

 

アメリカが訴訟大国と呼ばれる理由は、訴訟の数が多いからだけではありません。日本や他の国と比べて、アメリカの訴訟から発生するダメージは莫大に大きくなる、という傾向があります。これが、アメリカが訴訟大国と呼ばれるもう一つの理由です。

 

ここで私がいうダメージとは、訴訟に費やす時間や訴訟に追われて感じる精神的苦痛ではなく、訴訟にかかるお金の大きさとなります。そこで今日は、企業がアメリカで訴訟に巻き込まれた時に、莫大なお金のダメージが発生する理由は何なのかを見ていきたいと思います。

 

アメリカにおいて賠償金や和解金など訴訟にかかるダメージが大きくなる原因として4つの制度が挙げられます。

 

1つ目は、懲罰的損害賠償制度

2つ目は、民事陪審制度

3つ目は、集団代表訴訟制度

4つ目は、ディスカバリー制度

となります。

 

それぞれ詳しく見ていきたいと思います。

 

  1. 懲罰的損害賠償制度

 

まずアメリカの訴訟ダメージが大きくなる最初の原因として挙げられるのが、懲罰的損害賠償制度です。英語ではこれをPunitive Damageといいます。アメリカの民事事件では、被った経済的または精神的損害を埋め合わせするという填補(テンポ)賠償に追加して、被告は懲罰的賠償の支払いを命じられる可能性があります。

 

懲罰的賠償というのは、ペナルティや罰金のようなものです。原告の受けた損害が被告の故意または重過失による場合、被告は、まず原告の損害を回復するという填補賠償を支払います。他の国では、原告に対する損害賠償はここで終わりとなるのが一般的なのですが、アメリカでは、被告の行為が非難されるべきものであった場合、その行為に対する制裁そして同じような行為が2度と起きないようにという抑止力の意味を込めて、+アルファの賠償金の支払いが命じられます。

 

そして、この+アルファとなる懲罰的賠償の支払いが命じされた場合、被告の賠償は天文学的な数字となるリスクがあるのです。例えば、皆さんも知っているケースとして、熱いコーヒーをこぼして火傷をしたというマクドナルド・コーヒー事件があります。このケースでは、懲罰賠償を含め$270万ドルの評決が出されました。Liebeck v. McDonald’s Restaurant PTS, Inc(1994) その後、この陪審員の判断は過剰すぎるとして、裁判官が賠償額の縮減をする事になりますが、それでも$64万ドルの支払いをマクドナルドは命じられます。その内訳は、填補賠償が$16万ドルに対して、懲罰賠償はその3倍の$48万ドルの支払いとなりました。

 

このようにアメリカの民事訴訟には、企業にとって巨額なダメージが発生する要素があります。他方、原告にとっては、この懲罰的賠償の存在はある意味、訴えるインセンティブとなります。

懲罰賠償は訴える側には強力な武器、訴えられる側にとっては大きな驚異となる。そういった制度がアメリカには存在することを知っておいて下さい。

 

⒉ 民事陪審制度

 

合衆国憲法第七修正では、訴額(そがく)が$20ドル以上の民事事件において、陪審審理を受ける権利が保障されています。アレクシス・ド・トクヴィルも著書「アメリカの民主主義」の中で、陪審制度は、国民が法律や裁判制度を理解し裁判に対する信頼を高める上でもっとも有効な手段である、と言っています。そういう意味では、アメリカの法体系において陪審制度はとても重要なシステムとなっています。

 

他方、陪審制度は、アメリカの訴訟ダメージを高騰させる原因の1つとなっている、という問題もあります。アメリカの民事裁判では、法律や訴訟の手続きに関する判断は裁判官が行いますが、事件の事実認定は民事陪審の権限となっています。そして、民事陪審の権限である事実認定の中には、事件性のある・なしの判断の他に、先ほどお話しした懲罰的賠償を含めた賠償額の算定も含む事になっています。

 

ここがまさに問題で、法律のプロではない陪審員が、懲罰的賠償を付加するのかどうか?や、事件の賠償金はいくらが正当なのか?という判断をどこまで正しくできるのか疑問視されています。実際、陪審員は感情に流されることがあって、その感情によって訴訟ダメージを高くしてしまうという傾向があります。先ほど見たマクドナルドのコーヒー事件がいい例で、民事陪審の出した評決額があまりに高額である為に、裁判官が介入し賠償額を減らすというパターンが起きる。このことからも、民事陪審によってアメリカの訴訟ダメージが大きくなるというひとつの流れが見えると思います。

 

また、裁判官ではなく民事陪審が損害額を認定する場合、どのような判断が下されるか予想がつかないというのも問題です。そうなると、被告側は陪審審理にはかなり慎重に臨まなければならなくなり、それが弁護士費用など訴訟全体の費用を底上げしてしまう事になっています。

 

3.集団訴訟制度

 

アメリカの訴訟ダメージが大きくなる原因の一つとして、そして特に経営者の皆さんに知っておいていただきたいのが集団代表訴訟の存在です。この集団代表訴訟は、クラスアクション制度と呼ばれています。同一の環境において同じ被害を被った人たちまたは同じ法律で守られている人達が集まって、クラスを形成します。このクラスから代表者を立てて、クラス全体の利益追求の為の訴訟を起こす。これがクラスアクション制度です。

 

クラスアクションがもっとも起きている分野としては、製造物責任や情報漏洩などから生じる消費者とのトラブルや、差別・ハラスメントなどから発生する従業員とのトラブルが挙げられます。1消費者や1従業員が企業を個別に訴えたとしても、請求金額は少ないし交渉力もありません。他方、一人あたりの被害は少なくても、小さな被害を束ねて訴訟することができれば十分な規模となり、企業に大きなプレッシャーを与えることができます。クラスアクションとは、まさに、原告にとって泣き寝入りをせずに救済を実現させるためのシステムとなっています。

 

たくさんの人が集まって大きな請求をすることができる、そう言った仕組みとなっているクラスアクションが、アメリカでは頻繁に起きている、というのがアメリカにおける訴訟ダメージの大きさにつながってきます。また、クラスアクションでは、ある意味一つの裁判で二つの戦いが発生します。被告による不法行為があったか否かなど審議をする。いわゆる通常の裁判の戦いを行う前に、裁判所が集団としての訴訟を承認するかどうかを決めるという別の戦いが、クラスアクションでは行われます。この手続きをClass Certificationといいます。訴訟における集団が認められるかどうかは原告・被告を問わず、訴訟の勝敗を左右する重要な戦いです。ですので、訴訟当事者は、Class Certificationの戦いは慎重にそして時間をかけてのぞむ事になります。通常の訴訟の戦いの他に、Class Certificationというクラスアクションならではの戦いを強いられる。その分、クラスアクションでは、通常の訴訟よりももっと時間とコストがかかってくる、ということを覚えておきましょう。

 

クラスアクションがなぜアメリカで頻繁に起きるのか。そしてクラスアクションがどういった制度で、企業はクラスアクションに巻き込まれた時、どのように対応していくべきかについては、今後動画を作っていきたいと考えています。

 

4.ディスカバリー制度

 

アメリカの訴訟ダメージが大きくなる最後の原因として挙げられるのが、ディスカバリー制度です。ディスカバリーについては過去の動画でも触れていますが、日本にはないコンセプトで、トライアル(本審理)前の証拠や証言の開示制度となります。

 

裁判は証拠の戦いです。アメリカでは、いわば「捜査特権」とでもいうべき調査権が民事裁判の当事者には与えられていて、相手が持っている証拠を開示させることができる、相手側の証人から訴訟に関連する情報を受けることができます。このように、アメリカの裁判では証拠の全面開示が公正な裁判の基本となっているわけです。

 

他方、訴訟ダメージがかさむ最大の原因はこのディスカバリー制度である、と言っても過言ではありません。ディスカバリーの対象範囲はとても広く、訴訟に関連する資料は電子データ(e discovery)を含めて開示していく必要があります。また、ディスカバリーでは、Interrogatories(質問書)と呼ばれる質問リストを当事者の中で取り交わし、訴訟に関連する情報の回答を相手から得ることができる。また、Deposition(証人録取)というものがあって、相手の証人から直接話を聞いて事件に関する事実関係の情報を入手することもできます。

 

それと、ディスカバリーには、たとえ自分に不利な情報であっても訴訟に関連するもの、弁護士・依頼者秘匿特権の主張ができない場合は、その証拠を相手に開示をしなければならないという厳しいルールがあります。このルールに従わず、関連文書の隠蔽や破棄をすると罰金などの制裁を受ける、また訴訟自体が不利になるので注意しなければなりません。

 

先ほどもお話ししたように、裁判は証拠の戦いとなる為、訴訟や和解交渉を有利に進める上で、ディスカバリーは避けられないプロセスでもあります。しかし、ディカバリの対象となる情報があまり多いことから、この手続きにかかる弁護士費用や翻訳費用は莫大なものとなってしまいます。ディカバリーは公正な裁判を目指すという素晴らしい目的はあるものの、その効果としては、アメリカの訴訟ダメージを大きく上げてしまったという制度となってしまっています。


 

いかがでしたでしょうか?アメリカで訴訟に巻き込まれると、企業は大きなダメージを受ける事になる。その原因となる4つの制度を解説しました。経営者の皆さんには、アメリカが訴訟大国と呼ばれる理由を知っていただき、だからこそ、予防法務をアメリカでやる・やらないは大きく異なるのだ、ということを感じていただきたいです。

 

本日の動画が少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。

関連動画も、ぜひ、ご覧ください。

では、今日はこの辺で。ご視聴ありがとうございました。

 

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