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アメリカ法律力 第6回
『Personal Jurisdiction:裁判における人的管轄権』

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裁判所が人的管轄権を有するかどうかを判断するには2つの分析ステップがあります。その際に、重要なのは「ミニマムコンタクト」があるかどうか、です。ミニマムコンタクトには定義がなく、ケースバイケースで判断するため、ミニマムコンタクトの有無の判断はとても難しいのです。動画内では、チャートなどを用いて、できるだけわかりやすく解説をしました。

裁判における人的管轄権『Personal Jurisdiction:裁判における人的管轄権』:
アメリカ法律力 第6回

All OK Project、どうも、アメリカ弁護士の内藤です。よろしくお願いします。

 

アメリカの裁判所が、ある事件を裁くためには、Subject Matter Jurisdiction(事物管轄権)とPersonal Jurisdiction(人的管轄権)という2種類の管轄権を有している必要があります。

 

Jurisdiction, Subject Matter Jurisdiction(事物管轄権)、Personal Jurisdiction(人的管轄権)の用語については、以前、YouTubeの動画で解説をしました。

「法律英語第3回」

https://youtu.be/ZpKsGoNskUU

 

また、Subject Matter Jurisdiction(事物管轄権)についても、以前、解説をしていますので是非そちらもご覧ください。

https://youtu.be/5e8a3HsDDQE

 

本日の動画は、Personal Jurisdiction(人的管轄権)についてまとめていきます。

 

Subject Matter Jurisdiction(事物管轄権)が事件の内容によって、どの裁判所が訴訟を審理する権限があるのかを規定するのに対し、Personal Jurisdiction(人的管轄権)は裁判当事者、特に被告の立場や状況に着目します。裁判を提起する原告は、「自分のHome State(本拠州)だから」「自分に有利な法律があるから」と言った理由で、自ら裁判所を選ぶことになる為、原告のPersonal Jurisdiction(人的管轄権)が問題視されることはまずありません。

他方、訴えられる側の被告は、ある意味、原告が選んだ裁判所に呼び出されることになります。訴訟が提起された法廷地が、原告同様、被告にとってもHome Stateなのであれば、管轄権の問題がない事はわかります(理由については、この動画で解説します)。

しかし、被告が他州民、または他の州に本拠地を構える企業であった場合はどうでしょうか?州外の被告を、アウェイとなる法廷地に呼び出し裁判に強制的に参加させることは正しいのでしょうか?まさに、この疑問こそが本日のテーマであるPersonal Jurisdiction(人的管轄権)の問題となります。

 

 

本動画を作成するにあたり意識したこと:

Personal Jurisdiction(人的管轄権)の解説をする前に、私がこの動画を作成するにあたり意識した点が3つありますので、まずはそちらのお話をさせてください。

1つ目。今日の動画は、もしかすると先日お話したSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)よりも難しい内容となるかもしれません。Subject Matter Jurisdiction(事物管轄権)同様、たくさんキーワードが出てきますし、Personal Jurisdiction(人的管轄権)ある・なしを分析するステップも複雑です。そこで、今回の動画では、アメリカでビジネスをする経営者や駐在員の皆さんに向けて、是非知っておいていただきたいと私が思うPersonal Jurisdiction(人的管轄権)のエッセンスを簡潔にまとめることを心がけました。

2つ目。Personal Jurisdiction(人的管轄権)ある・なしは、被告が個人なのか、または企業なのかでは分析する内容が異なります。できるだけ簡潔にまとめる為、今回の動画では、被告が企業である場合にフォーカスをしていきます。

3つ目。20分以下の動画では、Personal Jurisdiction(人的管轄権)についてカバーできないポイントもありますので、その辺は自分のブログの方で補足していきます。たとえば、被告が企業の場合、Personal Jurisdiction(人的管轄権)のある・なしを分析するポイントが、近年、私がロースクール時代に学んだ内容から少し変わってきています。そこで、実際のケースをとりあげながら、Personal Jurisdiction(人的管轄権)の分析が近年どのようにされるのかを解説しているので、興味のある方は是非ブログをご覧ください。

 

 

Personal Jurisdiction(人的管轄権)におけるLong Arm Statute(ロングアーム法):

では、Personal Jurisdiction(人的管轄権)の解説はじめて行きましょう。

Personal Jurisdiction(人的管轄権)の分析は、連邦裁判所にて提起された事件においても、基本的に、法廷地がある州の規定に従って行われます。

連邦民事訴訟規則4条(k)(1)(A)・(2)

 

この管轄権を定める州の規定のことを、Long Arm Statute(ロングアーム法)と言います。Long Arm(手を伸ばす、長い手)という名称がイメージにぴったりなのですが、この規定は、たとえば、ニューヨーク州の裁判所が、カリフォルニア州に本拠地をもつ被告を呼び出し、ニューヨーク州で提起された裁判に強制的に参加させることができるという裁判所の権限と、その為の要件がまとめられています。このロングアーム法は州によって多少規定の内容が異なるのですが、ここで皆さんに覚えておいてもらいたいのは、ロングアーム法に規定されるPersonal Jurisdiction(人的管轄権)の範囲は、合衆国憲法修正14のDue Process条項(適正な法手続きを抜きにして、人の生命、自由または財産を奪うことはできない)に従わなければならないという点です。Due Processに反する形で、裁判所は被告を州外から呼び出し、裁判に強制的に参加させることはできません。それをすること、またそのような規定を定めることは、憲法違反(Unconstitutional)となります。

 

では、憲法違反とならず、Due Processの精神に則り、裁判所が州外の被告にPersonal Jurisdiction(人的管轄権)を有するためにはどうすればいいのでしょうか?

 

その為の基準となるルールが、ミニマムコンタクトという法理念となります。

被告が法廷地のある州と「最小限の接触(ミニマムコンタクト)」をもっていると判断される場合は、その州の裁判所が当該被告を州外から呼び出し、裁判に参加させることを強制させたとしても不合理とはならない。ただし、そのような管轄権の判断は「伝統的なフェアプレーと実質的正義の観念(traditional notions of fair play and substantial justice)」を害するものではあってはならない、とされています。

International Shoe Co. v. Washington, 326 U.S. 310 (1945)

 

ミニマムコンタクトの2段階のテスト:

ちょっとややこしいので、このルールを簡単にまとめるとミニマムコンタクトには、2段階のテストが用意されています。

ステップ1のテストとしては、被告と法廷地のある州との間に十分なコンタクトがあるのかを分析をします。要するに、裁判所が管轄権を主張するためには、被告が裁判所のある州と一定以上のコンタクトを持っていなければならないわけです。

そして、その裁判所が管轄権を有するためのミニマムコンタクトを認めることができた場合、

ステップ2として、その州内で、被告を裁くことはフェアであり正しいことか、を確認することになります。

World-Wide Volkswagen Corp. v. Woodson, 444 U.S. 286 (1980)

 

このステップ2が必要な理由は、たとえば、これだけテクノロジーやネット社会が発展すると、日本企業の商品または日本企業が製造した部品を使った商品がアメリカに流通することは予測できます。しかし、その流通の流れによって被告がアメリカで訴えられることを予見できたという理由で、ミニマムコンタクトがあると判断され、日本企業がアメリカの訴訟に参加させられるのは、たまったものではありませんよね。

Asahi Metal Industry Co. v. Superior Court, 480 U.S. 102 (1987)

 

だからこそ、ミニマムコンタクトが成立していたとしても、1)Personal Jurisdiction(人的管轄権)を認めることで被告にかかる負担、2)Personal Jurisdiction(人的管轄権)を認めることで生じる原告や裁判所の利益、3)もっとも適切な解決を図れる州際間のシステムや、4)社会正義の実現、などを比較検討し、州外の被告に対する管轄権の公平性を確認することが、Due Processを守る為のセーフティネットとなっていて、そのために、このステップ2が必要とされています。

Burger King Corp. v. Rudzewicz, 471 U.S. 462 (1985)

 

先にステップ2の説明をしましたが、ここでもう一度ステップ1に戻って、ミニマムコンタクトはどのように構成されるのか、一緒に見ていきたいと思います。

しかし、これが結構難解なのです。というのも「これがミニマムコンタクトだ」という明確な定義が存在しないため、ミニマムコンタクトはケースバイケースで判断していくことになります。

 

そこで、今までの判例を見てみると、ミニマムコンタクトの分析は、ざっくり画面のようなダイアグラムとしてまとめることができます。

Personal Jurisdiction図

ぱっとダイアグラムの左から右の方向へ見ていただけるとわかると思うのですが、被告と法廷地のある州のコンタクトの度合いが大きくなればなるほど、ミニマムコンタクトが成立する可能性が高まります。

そして、ダイアグラムの右側。ミニマムコンタクトが成立すると、被告に対するPersonal Jurisdiction(人的管轄権)が認められることになっていきますが、このPersonal Jurisdiction(人的管轄権)には、General Jurisdiction(一般管轄権)と Specific Jurisdiction(特別管轄権)という2種類の管轄権が存在します。この2種類の管轄権の違いについても、ダイアグラムを通して解説していきたいと思います。

 

最初にダイアグラムの左端を見てください。

左端は、被告と法廷地のある州との間に一切の接触がない場合です。被告がその州にビジネス拠点を有さない、その州では一切ビジネスをしていない、またはノー・コンタクトの場合は、当然ミニマムコンタクトはありません。よって、この州の裁判所は被告に対してPersonal Jurisdiction(人的管轄権)は有していないと判断されます。

 

ノーコンタクト=Personal Jurisdictionなし、というのは結構わかりやすいと思いますが、ここにひとつの例外があります。契約書にあるForum Selection Clause(裁判所の選択条項)によって、その州で裁判をすることに被告が合意している場合は、ノー・コンタクトであっても管轄権が認められる可能性があるので注意してください。

*裁判所は、一般的にForum Selection Clauseを尊重するのが一般的なので、しっかり交渉が必要。

 

では次に、ノーコンタクトの比較対象として右端を見てください。

ある州が、At Home(本拠州)、要するに被告にとってのHome Stateである場合は、十分すぎるほどのコンタクトが存在し、また第2ステップの公平かどうかの問題もないため、当該被告に対するPersonal Jurisdiction(人的管轄権)が認められることになります。

被告が企業の場合、At Homeであると考えられるのは、被告の設立州またはPrincipal Place of Business(重要な決定がなされる主たる事業所、本拠地)のある州のみ、という考えが最近の判例の傾向となっています。

Daimler AG v. Bauman, 571 U.S. 117 (2014)

 

そして、At Homeであるという判断によってPersonal Jurisdiction(人的管轄権)が認められた場合、その管轄権はGeneral Jurisdiction(一般管轄権)といって、どのような内容の訴えであっても、そしてその訴訟の事件がどこで起きたものであっても、裁判所は当該被告を裁くことができるのです。その州が被告にとってHome Stateなのであれば、企業はビジネスをする中で最大の利益をその州から享受し、だからこそ意図的にそこで活動しているわけですから、General Jurisdiction(一般管轄権)のような包括的な管轄権の対象となるのは、不公平ではないわけです。

 

私がロースクール時代は、設立州やPPB(Principal Place of Business:重要な決定がなされる主たる事業所、本拠地)のない州であっても、その州で州外法人登録(日本でいう支店登録)をしている、または従業員を有している等、企業が継続的かつ組織的な活動をしている場合には、General Jurisdiction(一般管轄権)の対象となる可能性がありました。しかし、近年では、この様な継続的かつ組織的な活動があったとしても、それらの活動を通して、あたかも被告にとってその州がAt Homeであるといえる程の要素がなければ、General Jurisdiction(一般管轄権)の対象とはならないとしています。

 

 

「起因」と「関連性」について:

では、最後にダイアグラムの真ん中。被告にとって設立州や本拠地はない州において、コンタクトはあるけれども、どのような状況、どの程度のレベルになると、その州においてミニマムコンタクトが成立しPersonal Jurisdiction(人的管轄権)が認められてしまうのかを見ていきます。

この分析をする上で、基準となるのは、英語で言うと、訴訟の訴えが、「Arise out of or are related to」となる被告のコンタクトです。ここでは訴訟が被告の接触に起因または関連したものかを裁判所は検討していきます。

Bristol-Myers Squibb Co. v. Superior Court, 137 S. Ct. 1773 (2017)

 

まず「起因」という点では、たった1回のコンタクトでもミニマムコンタクトと判断されることがあります。わかりやすい例としては、州外から来た被告が車の事故を起こすといった事件です。

他方、「関連性」については、被告のコンタクトの度合いに注目が向けられます。コンタクトの頻度が多い、特に、継続かつ組織的なコンタクトが見られる場合は、被告は意図的にその州でビジネス行為をしていることになります。これを法廷地の州の利益と保護を受ける特権を意図的な利用「Purposeful Availment(」と言いますが、この様なPurposeful Availmentがある場合、訴えの請求と被告のコンタクトの関連性を見出す可能性が高くなるため、ミニマムコンタクトが成立する可能性も同時に高まってきます。

Hanson v. Denckla, 357 U.S. 235 (1958)

 

逆にコンタクトが単発的で頻度が低い場合は、被告と州との繋がりは偶発的または非意図的であったり、関連性も低くなるため、十分なミニマムコンタクトはないと判断されることになります。

 

この様に、被告のコンタクトが訴えの起因または関連となっていて、その事実からミニマムコンタクトが成立し結果Personal Jurisdiction(人的管轄権)が認められるという管轄権のことを、Specific Jurisdiction(特別管轄権)といいます。Specific Jurisdiction(特別管轄権)は包括的管轄権のGeneral Jurisdiction(一般管轄権)とは異なり、被告のコンタクトから起因するまたは関連する事件に限定した管轄権を認めるものとなっています。

本日のまとめ(4つのポイント):

いかがだったでしょうか?本日の動画は、とてもテクニカルな内容だったと思いますが、本日の動画で皆さんに覚えておいてもらいたいPersonal Jurisdiction(人的管轄権)のポイントは、以下の4つです。

  1. Personal Jurisdiction(人的管轄権)のある・なしを判断する基準として、ミニマムコンタクトという法理念がある。

  2. ミニマムコンタクトの分析として、その裁判所のある州が被告にとってAt Homeであれば、General Jurisdiction(一般管轄権)という人的管轄権が認められる。

  3. ミニマムコンタクトの分析として、General Jurisdiction(一般管轄権)が認められない州においても、被告のコンタクトが訴えに起因・関連する場合は、Specific Jurisdiction (特別管轄権)という人的管轄権が認められる。

  4. ミニマムコンタクトの成立により、裁判所に管轄権が認められたとしても、Due Processの精神に則り、それが本当にフェアなのかを検討する。
     

本日解説したPersonal Jurisdiction(人的管轄権)は、米国での「訴訟を回避する」為のひとつの手段となる、とても重要なコンセプトです。原告が自分にとって都合の良い場所で訴えても、その裁判所がPersonal Jurisdiction(人的管轄権)を有していないと、訴えが却下されることがあります。訴訟を継続させるためには、原告は今度は自分にとって都合の良くない、または不利となる州で訴えを再度起こさなくてはなりません。こうなると、原告は訴える気力さえなくなり訴訟を断念する、といったことも少なくありません。こうなれば被告から有利な和解交渉を持ち込むこともできる様になります。

 

そういう意味でPersonal Jurisdiction(人的管轄権)については、経営者の皆さんのリーガルセンスのアンテナの一つに加えていただければと思います。

 

本日の動画が少しでも皆さんのお役に立てれば幸いです。

実際のケースではPersonal Jurisdiction(人的管轄権)がどの様に分析されているかを、この動画の補足として、US Legal Aid for Leadersのブログでまとめていますので、ぜひそちらもご覧ください。

Youtube動画の補足

ケース分析①

ケース分析②
 

また、関連動画も是非、ご覧ください。

 

では、今日はこの辺で。ご視聴ありがとうございました。

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