ケース分析②:『Personal Jurisdiction:裁判における人的管轄権』


YouTubeチャンネル「久ラジ」では、アメリカの裁判制度におけるPersonal Jurisdiction(人的管轄権)についてお話しました。









https://youtu.be/7IHAmKqrmC8


また本ブログでは、その補足として、Personal Jurisdictionを有するかどうかを判断する際に参考となる判例を紹介しています。本日は、2つ目の判例として、以下のケースを取り上げます。


Ford Motor Company v. Montana Eighth Judicial District Court

ケースの概要

2015年、JeanさんというMontana州に住む女性が、乗っていたFord Explorer(車種)のタイヤの故障が原因で、同州の高速道路で事故となり亡くなるという事件が発生。その後、Jeanさんの遺族が、Ford Motor社に対して不法行為、そして製造物責任の訴訟を起こします。この訴訟に対してFord社は、人的管轄権をMontana州は有していないことから訴えの却下を主張します。


本件は、最高裁判所にて審理されたケースです(2021年3月25日)。下級審では、Ford社の主張を否定した形となり、「Montana州でのFord社のビジネス活動からPurposeful Availmentがあったとし、同州は被告に対してSpecific Jurisdiction(特別管轄権)を有している」と判断。最高裁は、8-0(Justice Barrettは欠席)で、下級審の判決に間違いはないとします。


Ford社の設立州はデラウェア州、本拠地はミシガン州です。Jeanさんの乗っていた車はケンタッキー州で製造され、ワシントン州のディーラーで販売されたものです。その後、オーナーが転々と変わり、最終的にモンタナ州に住むJeanさんが所有することになります。


*モンタナ州はFord社のAt Homeではないことから、General Jurisdiction(一般管轄権)は認められません。


Ford社は、モンタナ州にてFord Explorerそのものの広告、販売(36のディーラーシップ)、修理・メンテナンスなどのサービスを継続的に行ってはいますが、①Jeanさんの車は、Ford社がモンタナ州で製造、デザイン、販売したものではないこと、②訴えまたは事故そのものは、Ford社の同州でのビジネス行為やコンタクトが原因ではないことを主張します。


しかし、最高裁は、Ford社はSpecific Jurisdiction(特別管轄権)ある・なしを判断するための基準である「arise out of or are related to(起因・関連)」を、「Causation(原因)」と狭く解釈しすぎていると、Ford社の主張を否定するのです。


過去の判例から、Specific Jurisdiction(特別管轄権)には厳格なcausal relationship(因果関係)だけが求められているのではなく、Ford社の主張は、「related to」という2つ目の要素を無視したものとなります。Ford社も認めていますが、Ford社の同州におけるコンタクトはExtensive(広範囲)であり、これらの積極的行為はPurposeful Availment(法廷地の州の利益と保護を受ける特権を意図的に利用)と看做されます。このようなPurposeful Availmentがある場合、訴訟と被告のコンタクトは関連し、人的管轄権(本件では、Specific Jurisdictionとなる)を認める十分なミニマムコンタクトが存在していると判断されます。訴訟と被告のコンタクトの関連性の裏付けとしては、Ford Explorerの販売促進を同州で被告が積極的に行っていたことや、このモデルの中古車用の部品販売やメンテナンスを行っていたことなどが挙げられています。


補足:

何をもって「十分な」関連性があるかは定義が難しいところですが、Purposeful Availmentと判断される程の積極的な被告のコンタクトが法廷地のある州で見られる場合は、裁判所によってこの関連性を見出される可能性が高くなると言えます。Ford社は、モンタナ州をターゲットとして、Ford Explorerの販売促進を積極的に行っています。その上で、Explorerを所有するオーナーによってFord社がMontana州で訴えられることには、サプライズ的要素は少なく(予見可能)不公平性もあまり感じません。


また、Specific Jurisdiction(特別管轄権)を有している法廷地として、もっとも適切な場所はどこか?という視点から、この関連性を分析することもできます。Ford社は、Jeanさんの車が最初に販売されたワシントン州がもっとも適切な法廷地と主張していますが、本当にそうでしょうか?原告が自分に有利な判決を求めて法廷地を決めるというForum Shoppingの問題があるのであれば別ですが、Jeanさんが住んでいて、事故のあったモンタナ州で原告が訴えていることは、ある意味自然です。そして、事故の車がどこで使用されたか、どこで欠陥が発生したか、どこで事故が起きたかを考慮し、Fordの継続かつ組織的コンタクトを検討すると、Montana州以上にワシントン州が適した法廷地であるというのは難しい気がします(ワシントン州にSpecific Jurisdictionはあるが、モンタナ州にはないという主張は苦しい)。


以上がPersonal Jurisdictionを有するかどうかを判断する際に参考となるケース分析でした。こうした判例からも、Personal Jurisdictionの問題は非常に判断が難しいことがわかるかと思います。

アメリカの裁判制度におけるPersonal Jurisdictionの理解は複雑ですが、経営者やリーダーのみなさんには、リーガルセンスを磨くためにも、ぜひ知っておいていただきたいと思います。



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