ケース分析①『Personal Jurisdiction:裁判における人的管轄権』

YouTubeチャンネル「久ラジ」では、アメリカの裁判制度におけるPersonal Jurisdiction(人的管轄権)についてお話しました。

https://youtu.be/7IHAmKqrmC8


また前回のブログ記事では、以下の図をご紹介し、ミニマムコンタクトのある・なしの分析方法についてお話をしました。



今回は、Personal Jurisdictionを有するかどうかを判断する際に参考となる判例として、以下のケースを取り上げます。


Fidrych v. Marriott International, 952 F. 3d 124 (4th Cir. 2020)


ケースの概要

サウスカロライナ州に住む原告は、イタリアのミラノにビジネスのため出張することになり、その際、Boscolo MilanoというMarriott社グループ系列のホテルに泊まりました。BoscoloホテルはMarriott社の子会社ではなく、またホテルの運営にもMarriott社は関わっていませんが、Marriott社グループのウェブサイトから予約ができるホテルでした。


Boscolo Milanoに宿泊中、ホテルのシャワールームのガラスのドアが割れて原告は大怪我をし、何度か手術をすることになりました。原告は、ホテルの安全管理がなっていないのはMarriott社の過失責任(Negligent)であるという事を理由に、自分のHome State(本拠州)であるサウスカロライナ州のDistrict Court(連邦地方裁判所)にてMarriott社を訴えます。Marriott社は、サウスカロライナ州の裁判所は人的管轄権を有していないことを主張。裁判所も被告に対する人的管轄権を否定し、訴えを取り下げます。その判決を受け、原告は連邦第4巡回区控訴裁判所(the US Courts of Appeals for the Fourth Circuit)に上訴します。


Marriott社はデラウェア州にて法人設立していて、本拠地(Principal Place of Business)はメリーランド州です。Marriott社は、サウスカロライナ州にて州外法人登録(支店)をしていて、同州では90以上のホテル経営をしています。



ここで問題です。

Question1:

Marriott社は、サウスカロライナ州にて州外法人登録をし、90以上ものホテルを運営していることから、General Jurisdiction(一般管轄権)が認められるべきか?


さあ、どうでしょうか。


実際の判決は以下となります。

Answer1:

連邦第4巡回区控訴裁判所は、Marriott社に対するGeneral Jurisdiction(一般管轄権)を否定しました。Marriott社が州外法人登録をしていること、また複数のホテルを運営していることは、サウスカロライナ州以外の州でも同じ状況であることから、この事実だけで、同州を当該被告のAt Homeと見なすだけの継続的かつ組織的なコンタクトがあったとは言えない、と判断したのです。


ここで補足をすると。

Marriott社のAt Homeは、設立州のデラウェア州と本拠地のメリーランド州のみというのが基本であって、それ以外の州でGeneral Jurisdiction(一般管轄権)が認められるには、その州と当該被告にAt Homeと言えるほどの密接で特別なコンタクトがなければ証明は難しいのです。


ちなみに、ダイムラー対ボーマン事件の判決以降、日本に本拠地をもつ日本企業などの海外の企業に対して、General Jurisdiction(一般管轄権)が認められることは、かなりレアなケースとなりました。

Daimler AG v. Bauman, 571 U.S. 117 (2014)


では、次の問題です。


Question2:

Marriott社は、サウスカロライナ州にて州外法人登録をし、90以上ものホテルを運営しています。また、原告は、サウスカロライナ州からMarriott社のウェブサイトにアクセスをし、Boscolo Milanoの予約をしていることから、Specific Jurisdiction(特別管轄権)が認められるべきか?



以下、判決の内容です。


Answer2:

連邦第4巡回区控訴裁判所は、Marriott社に対するSpecific Jurisdiction(特別管轄権)を否定します。裁判所は、事故はイタリアで発生していることから、訴訟とMarriott社の同州におけるコンタクトの関連性は、「too tenuous and too insubstantial(非常に弱く、不十分)」であると判断します。原告は、イタリアで起きた事故によりサウスカロライナ州に戻ってからも怪我で苦しんではいますが、同州は原告のDomicile(定住所)であること、そして、Specific Jurisdiction(特別管轄権)を分析する上では、同州に対する原告のコンタクトよりも、被告のコンタクトが訴えに起因または関連しているのかが重要となります。


また、裁判所は、原告が被告のウェブサイトに同州にてアクセスを行い、事故が起きたホテルの予約をしたという事実だけで、訴訟と被告のコンタクトに(Specific Jurisdictionを認めるだけの)関連性が生じているとは言えない、と判断します。被告のウェブサイトは無料のフリーダイヤルみたいなもので、顧客に便利なサービスを図る目的でしかなく、サウスカロライナ州だけをターゲットにしているわけではない、としたのです。



ここで補足です。

Marriott社は、サウスカロライナ州で州外法人登録し90以上のホテルを経営していることから、継続的かつ組織的コンタクトがあると言えます。しかし、Specific Jurisdiction(特別管轄権)が認められるかは、訴訟が被告のコンタクトに「起因・関連」しているかが重要なのです。そして、この分析はケースバイケースであり、裁判所によって判断が分かれます。


Marriott社の同州での州外法人登録やホテル経営の事実と、イタリアでの事故との関連性は薄いというのは、理解できます。自分たちが経営をしていないイタリアのホテルの事故が原因で、同州において訴えられるとは、Marriott社は予見できないでしょう。イタリアの事故と、被告のコンタクトの関連性を見出すとすれば、「原告がサウスカロライナ州から(Boscoloホテルに)ウェブサイト予約ができた」という点だけとなります。しかし、このアクセスだけで裁判所がSpecific Jurisdiction(特別管轄権)を認めてしまうと、Marriott社の様な全世界に向けたウェブサイトを持つ大手企業は、どこの州でも人的管轄権が発生してしまうという状況になります。裁判所は、基本的には、この様な普遍的な人的管轄権は認めていないのです。


では、次の問題です。

Question3:

Marriott社が同州にて州外法人登録することは、同州が管轄権を持つことに被告が同意したことになるのか?


Answer3:

これに対して連邦第4巡回区控訴裁判所は、州外法人登録をしていることは、管轄権に対する被告の「同意」とはならないと判断しました。


ここで補足です。

州外法人登録が管轄権の同意になるのか?という点は、州によって判断が変わる可能性があるので、注意が必要となります。


以上がPersonal Jurisdictionを有するかどうかを判断する際に参考となる実際のケースです。こうした判例からも、Personal Jurisdictionの問題は非常に判断が難しいことがわかるかと思います。

アメリカの裁判制度におけるPersonal Jurisdictionの理解は複雑ですが、経営者やリーダーのみなさんには、リーガルセンスを磨くためにも、ぜひ知っておいていただきたいと思います。



この記事に関する質問は、hnaito@mosessinger.comまで、日本語でお気軽にお問い合わせください。なお、本記事は執筆時の情報に基づいており、現在とは異なる場合があることを、予めご了承ください。最新コンテンツやアップデート情報などをいち早くご希望される場合は、ニュースレターへの登録をお願いいたします。