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【米国訴訟の罠】契約にある「通知条項」をスルーしてはいけない :送達の合意が命運を分ける

  • hnaito9
  • 2025年12月24日
  • 読了時間: 4分



「契約書の最後の方にある『Notice(通知)』条項なんて、住所が合っていれば大丈夫だろう」……もしそう思っているなら、非常に危険です。


米国訴訟において、訴状が正式に被告に届く「送達(Service of Process)」の手続きは、裁判所が被告に対して権限(管轄権)を行使するための極めて重要なプロセスです。そして恐ろしいことに、米国では「契約による合意」が、法律や国際条約(ヘーグ条約)よりも優先されるのです。


1. 契約によって決まる「送達の法的効力」

通常、日本企業を訴えるには、ヘーグ条約に基づき外務省を経由する煩雑な手続きが必要です。しかし、契約書で「メール送達を認める」と一筆書いてあれば、相手はメール一本であなたを米国の法廷へ引きずり出すことができます。 判例(Greystone 事件等)が示す通り、裁判所は「当事者が合意した方法」を絶対視します。つまり、通知条項をスルーすることは、自らを守る防壁(適正手続き)を自ら壊すことに等しいのです。


2. 被告側が陥る「Waive(放棄)」の恐怖

最も警戒すべきは "Waive(放棄)" という言葉です。「正式な送達手続きを放棄する(Waives formal service of process)」という文言にサインした瞬間、あなたは米国憲法が保障する「適切な告知を受ける権利」を捨てたことになります。

これにより、知らない間に裁判が始まり、気づいた時には反論期限が過ぎて、「欠席判決(Default Judgment)」で巨額の賠償が確定していたという最悪のシナリオが現実味を帯びます。


3. 【ケーススタディ】悪い条項サンプルから学ぶ

All notices and legal communications may be delivered via email to the address provided below. The parties hereby waive any right to formal service of process under the Hague Convention and the Federal Rules of Civil Procedure, and agree that a Notice or service of process shall be deemed effective and complete at the time of transmission by the sender. Failure to receive a copy due to technical issues shall not invalidate the service.


なぜこの条項が「最悪」なのか:4つの致命的リスク


ア) 「送信時」に送達完了となる恐怖 (At the time of transmission)

通常、FRCP(連邦民事訴訟規則)では、書類が手元に届いてから反論期間(通常21日)のカウントが始まります。しかし、この条項では「相手が送信ボタンを押した瞬間」にカウントが始まります。


イ) 「不達」の責任を被告が負わされる (Technical issues)

「技術的問題で届かなくても送達は有効」という一文が最悪です。相手のメールがスパムフォルダに入った、サーバーダウンで消失した、担当者が退職してアドレスが無効だった、という場合でも、「法的には届いたもの」として裁判が進みます。気づかなければ、知らない間に欠席判決(Default Judgment)が下され、敗訴が確定します。


ウ) 適正手続(Due Process)の放棄 (Waiver of FRCP)

被告は、通常はFRCPに基づき「対面での手渡し」や「受領確認付き郵送」など、確実性の高い方法で訴状を受け取る権利があります。この条項は、米国憲法が保障する「適切な告知を受ける権利(Due Process)」を契約で自ら捨てていることになります。


エ) ヘーグ条約のバイパス(日本本社への影響)

本来、日本本社への送達はヘーグ条約に基づき外務省を通じた厳格な手続きが必要ですが、この条項があると、相手は日本本社に対しても「メール一本」で有効な送達ができたと主張できてしまいます。


4. 「契約プレイブック」を武器に守りを固める

このような事態を防ぐため、企業として「契約プレイブック」を整備しておくことが不可欠です!


1. 「一貫した防衛ライン」を張るため

通知条項は契約の末尾にあり、交渉の最終盤で「些末な項目」として扱われがちです。しかし、米国訴訟において送達は、裁判の勝敗を決める「管轄権(裁判所が会社を裁く権利)」に直結します。 担当者や案件ごとに判断がバラバラだと、ある契約では守られているのに、別の契約では「メール送達を承諾」してしまっているという、防衛の穴が生まれます。プレイブックがあることで、全社的に一貫した防衛体制を維持できます。


2. 「レッドフラッグ(危険信号)」を自動化するため

米国企業の雛形には、巧妙に「Waiver of Service(送達の放棄)」が組み込まれていることがあります。プレイブックにて「悪い例」を定義しておくことで、若手社員や現場の担当者でも、そのリスクに即座に「レッドフラッグ」を立てられるようになります。「気づかずにサインしてしまった」という、最も防ぐべき致命的なミスをシステムとして排除するのがプレイブックの役割です!


プレイブックについて解説したYouTube動画をつくりましたので、ぜひご覧ください。



この記事に関する質問は、Moses Singer弁護士内藤博久hnaito@mosessinger.comまで、日本語でお気軽にお問い合わせください。なお、本記事は執筆時の情報に基づいており、現在とは異なる場合があることを、予めご了承ください。最新コンテンツやアップデート情報などをいち早くご希望される場合は、ニュースレターへの登録をお願いいたします。





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