アメリカ法律力 第1回
『リーガルセンスを身につける』

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『アメリカ法律力』の第1回は、アメリカでビジネスをする経営者が絶対に身につけたい「リーガルセンス」について。つまり、「法律問題にピンとくる力」です。経営判断をする場合、「あ、これは法律の問題になるな...」と勘が働くようになるには、どうすればいいのか。アメリカは、社会現象によって次々と新しい法律が生まれる法律の先進国。リーガルセンスを磨くには、最高の環境です。経営者だからこそ知っておきたい大切な法律(ディスカバリー制度や秘匿特権)などについて、米国弁護士が解説しています。

​リーガルセンスを身につける
 

All OK Project、どうも、アメリカ弁護士の内藤です。

今回のテーマは、アメリカでビジネスをする経営者であれば、絶対に身につけておきたいリーガルセンスについてお話ししてきたいと思います。

 

リーガルセンスとは、ざっくりいうと「法律の問題にピンとくる力」です。

アメリカは訴訟大国。法律を無視していると大きなトラブルに巻き込まれてしまいます。

アメリカの訴訟リスクの高さは知っているよ、という皆さん、実際どれくらい法律を意識して生活していますか?

経営判断をする際、あ、これは法律の問題になるな、とピンとくることがありますか?

法律は面白くないトピックなので、現場や弁護士に丸投げすればいい、なんて考えていませんか?

 

アメリカの歴史上もっとも重要な古典のひとつである、「アメリカのデモクラシー」という本の著者・アレクシス・ド・トクヴィルは、アメリカの陪審制度は、国民に民主主義を学ばせる最高の学校だといっています。

私もトクヴィルと似たようなことを言ってみたいのですが、アメリカでビジネスをすることは、経営者にとって、リーガルセンスを学ぶ最高の方法です。そして、リーガルセンスを身につければ、経営者としての手腕やリーダーシップにも繋がってくるはずです。

 

アメリカで法律に関心を持たないなんて勿体ない。ということでこの動画では、経営者がリーガルセンスを身に着ける重要性について解説していきますので、是非お楽しみください。

 

アメリカで日本人経営者が、リーガルセンスを身に着けるべき理由は、ずばり2つあります。

  1. 知って得する、或いは知らないと損する法律があるこということ。

  2. アメリカの最新の法律問題に触れ、3~5年後の日本への影響を先取りする事。

 

では、それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

1.知ってトクする・知らないと損する法律がアメリカにはある、というポイントについて。

 

先ほども言いましたが、アメリカは訴訟大国です。アメリカでビジネスをする上では、経営者が会社を守る、または自分自身を守るために日常的に意識しておくべき法律があります。

 

例えば、アメリカの裁判には、ディスカバリ制度という「証拠開示手続き」が存在します。

Discoveryというのは民事訴訟の当事者が、相手の手持ちの証拠を開示させる事ができる、といういわば調査権を持っています。

 

裁判は証拠の戦い。その意味で、このディスカバリはアメリカ裁判の主戦場、なんて言われていて、もっとも時間とコストのかかる手続きになっています。

 

訴訟に関連する証拠は、たとえ不利な情報であっても、原則全て開示しなきゃいけません。不利な証拠だから隠そうなんてことをすると、厳しいペナルテいが課されることになりますし、裁判で不利になることがあるので注意しなければなりません。


 

アメリカ裁判の特徴とも言えるディスカバリ制度ですが、一つだけ例外があります。

それが、Attorney−client Privilege、弁護士・依頼者間の秘匿特権と呼ばれるものです。

秘匿特権については、今後特集を組む予定ですので、ここでは簡単な説明に留めますが、

弁護士と依頼者間で秘密裏に行われた法的相談内容については、

「開示を拒否する」事ができます。

そして、この特権は、原則、相談相手が弁護士の時のみ、生じる権利となっています。

 

アメリカでビジネスをする上では、秘匿特権はとても重要な法的概念になるのですが、その有効性を知っている日本人経営者は少ないと感じてます。

 

よくあるケースとして、人事・労務の問題では、差別行為があったことを人事コンサルタントに相談してしまう。また特許訴訟では、その侵害可能性を弁護士ではなく弁理士に相談してしまう、といった事です。人事コンサルタントや弁理士に相談した内容は秘匿特権とは見做されません。よって、取り交わされた会話や資料を含めたあらゆる情報は、Discoveryの対象となってしまいます。

 

正直、日本人の人事コンサルタントや弁理士の中には、アメリカにおける秘匿特権の重要性を知らない人もいます。そういう人たちはアドバイスすべきでない分野まで、積極的に宣伝して行っていたりすることもありますが、この行為は、裁判になった時、クライアントさんに大きなダメージを与える可能性があります。

 

もちろん、人事コンサルタントや弁理士を使ってはいけないということではありません。弁護士よりも人事コンサルタントや弁理士が有効な場面はたくさんあります。

それと同様に、アメリカでは弁護士を使わなきゃいけないんだよ、という内容というものがあって、これがアメリカビジネスでは法律が欠かせない要素となっている所以です。

 

このように、相談する内容によってプロの使い分けをしっかりする。相談するプロによってしてはいけないコミュニケーションがあるというのをアメリカの経営者は意識しています。

一つの例にはなっているのですが、秘匿特権を活用するのは、アメリカの経営者が当たり前のように持っているリーガルセンスです。皆さんがアメリカで競争していく以上、秘匿特権のようにアメリカ人経営者がビジネスをする上で意識する法律は知っておきましょう。

そしてリーガルセンスがないことで大きな損をしないようにしましょう。


 

では、次に二つ目のリーガルセンスを身につけるべきポイントについて解説していきたいと思います。それは、アメリカだからこそ、法律を知る楽しさや学ぶ価値がある、ということです。まず、アメリカには法律の問題が、たくさん私たちの身近に存在します。いいことか悪いことか分からないのですが、たくさん存在します。

 

法律の問題が溢れているからこそ、私のような日本人であってもアメリカで弁護士業ができます。また、アメリカのロースクールには、世界中から学生が集まります。それは、アメリカが法律問題の最前線であり、学ぶべき法理論がたくさんあるからです。

 

例えば、UberやLyftなどのカーサービスを皆さんも利用されていると思います。では、Uberの運転手は独立契約者でしょうか、それとも従業員と区分すべきでしょうか?

英語ではMisclassificationと呼ばれるのですが、不当区分に関する法律の規定は昔からあります。でも、この法律が書かれた頃はUberなどのGig economyは存在しませんよね。古い法律を新しい産業やテクノロジーに当てはてみると、法律の解釈が曖昧になる現象が起きます。実際、Uberの運転手の区分については、アメリカでは、州によって解釈が異なるため、「何が正しいの?」と分からなくなる事があります。

 

このように、ビジネスをめぐる法律が現代においてちゃんと機能しているか否かが議論される最先端マーケットが、アメリカです。アメリカでは、いろいろな法的理論が議論されていて、新しいビジネスや社会現象の変化に応じて、新しい法律が生まれる、という面白さがあります。

ですので、アメリカにきた以上、この法律の面白さにも、経営者はアンテナを張っておくべきだと思います。

 

というのも、アメリカで議論されている法理論や概念が、3−5年後には日本の法律となっている事があるからです。日本版SOX法などが良い例ですよね。

また、今、アメリカで起きている法律の問題も、数年後には日本に輸入されるパターンがあります。例えば、Me Too Movementによって、アメリカでは、セクハラに関する規定が厳しくなりました。

でも、女性に対する職場における差別、不利益な扱いを是正する動きは、これで終わりではありません。というか、むしろまだ始まったばかりとみるべきです。職場の男女の格差をなくすため、今後は同一賃金法の強化が図れることになります。

 

また、他の社会現象として、コロナ禍に起きたBlack Lives Matterの活動についても注目しなければなりません。この活動によって、職場におけるDiversityやInclusionの取り組みは更に求められることになるでしょう。

 

DiversityやInclusion、女性の職場における格差などの問題への取り組みは、正直、日本はアメリカの10年遅れといっても過言ではないかもしれません。だからこそ、今アメリカにいる日本人経営者には、アメリカの法律問題を、アメリカにいる間に体感して欲しいです。アメリカでしかできない事はたくさんあります。

 

しかし、社会的課題となる法律問題を学ぶ場所として、アメリカは最高の鍛錬の場所です。そして、どの国よりも最新のリーガルセンスを習得できる場所でもあります。リーガルセンスを身につけながらアメリカで得る経験は、皆さんが日本に戻った時にかなり役に立つことになると思います。

 

また、リーガルセンスを身につけることは、皆さんのスキルアップにも繋がります。例えば、コミュニケーション力。法律力を身につけることは、ロジカルシンキングを向上させることにあります。私の経験上、リーガルセンスのある経営者の方が、法律に無関心な人よりもコミュ力や説得力が高いです。そりゃそうで、人種の坩堝であるアメリカでは、日本で通用する当たり前は利きません。

 

違う価値観、バックグランド、そういった人達とやり合うには、そりなりのロジックがなければなりません。なので、リーガルセンスのある経営者は、一般的にリーダーとしての資質も高いです。それも、グローバルスタンダードで見たリーダー論となります。

 

以上、私が、経営者の皆さんにリーガルセンスを身につけて欲しい理由をまとめてみました。

今日みた、2つのポイント。

 

  1. 訴訟大国アメリカには、会社を守る上で経営者が知っておくべき法律があるということ

  2. アメリカは、リーガルセンスを習得する最高の環境であること。

 

リーガルセンスは、経営者である皆さんの強みになると考えています。

今後も皆さんのリーガルセンスに役立つようなコンテンツの配信をしていきたいと思ってます。

では、今日はこの辺で!ありがとうございました。