アメリカ法律力 第2回
『アメリカの法源』

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今回のテーマは、アメリカの法源:Source of Lawについて。アメリカの法律には、合衆国憲法、連邦制定法、連邦の行政規制、連邦のコモンロー、州の憲法、州の制定法、州の行政規制、州のコモンローなどがあり、とても複雑な法体系をしています。そして、この複雑さが、アメリカが訴訟大国となる一つの原因です。本動画では、アメリカでビジネスをする上で、経営者の皆さんが守る法律やルールの形式がどのように存在しているかについて、お話ししてきたいと思います。

​アメリカの法源
 

All OK Project、どうも、アメリカ弁護士の内藤です。

今回のテーマは、アメリカの法源:Source of Lawについて。アメリカでビジネスをする上で、経営者の皆さんが守る法律やルールの形式がどのように存在しているかについてお話ししてきたいと思います。

 

まず、ざっくりとしたアメリカの歴史のお話からスタートします。

1776年トマス・ジェファーソンが独立宣言を発表。イギリスからの独立をかけた戦争が本格化し、アメリカ側がヨークタウンの戦い(1781年)にて勝利をおさめます。このヨークタウンの勝利によって、アメリカ13植民地の独立が確定します。その後、1783年に正式にアメリカの独立を認めますよ、というパリ条約が締結され、ここにアメリカ合衆国が誕生します。

(フランスから自由の女神が贈られる)

 

イギリスからの独立後、アメリカ人にとってもっとも重要な課題となったのがアメリカ政府のあり方でした。ここに、2つの考えが対立する事になります。

 

1、植民地であった13の州が独自の政府をもってアメリカを統治すべきという考え。

2、アメリカ合衆国憲法をつくって、13の州を束ねる強い中央政府の確立を目指すという考え。

この時、強い中央政府や連邦憲法なんて必要ないよねと主張したのが反連邦派と呼ばれる人達です。いやいや、アメリカを強い国とするには、団結し連邦国家として出発すべきだ。その為に合衆国憲法は絶対に必要でしょ、と主張した人達を連邦派と呼びます。ちなみに、合衆国憲法を巡ってこの時誕生した2つの派閥ですが、連邦派は現在の共和党、そして反連邦派は現在の民主党といったアメリカ二大政党の基盤となっていきます。

 

1787年、二大派閥間で討議に討議を重ねて最終的にはアメリカ合衆国憲法が制定される事になります。ここで誕生した合衆国憲法が、まず経営者の皆さんが知っておくべき法源の1つ目となります。

 

合衆国憲法は制定されますが、まだ完璧ではありません。というのもイギリスの支配から独立したばかりのアメリカ人は、強い政府をつくってしまうと自分たちの自由が奪われるのではないか、という大きな不安をもっています。そこで、権力と自由のバランスを確保する為に、アメリカは2つの工夫をします。

 

  1. 人々の基本的人権を保障する為の修正条項(Amendments)を合衆国憲法に追加します。この時追加された条項は10あって、これらをBill Of Rights(権利章典)と呼びます。皆さんがご存知の、言論や宗教の自由(修正第1条)、国民が武器を保有する権利(修正第2条)、残酷で異常な刑罰を禁止する(修正第8条)などが権利章典にまとめられています。

 

  1. 二つ目の工夫は三権分立です。政府を3つの明確に異なる部門に分けることで権力の集中と乱用を防ぐ仕組みを作ります。ここでいう部門とは、立法府(絵でCongress)、行政府(絵でPresident)、司法府の3つ。合衆国憲法の第1条から第3条において、議会、大統領、裁判所の権限が示されるとともに、それぞれが如何にチェック&バランス、抑制と均衡を図るかが定められています。この三権分立の重要性を説いた「ザ・フェデラリスト」という85篇からなる論文集は、アメリカ政治思想を語る上で欠かせない古典となっています。また、三権分立はアメリカの法源を知る上でも重要となるので、詳しく見ていきましょう。

 

立法府:

合衆国憲法は、連邦議会に法律を制定する権限を与えています。連邦議会によって制定される法律のことをStatute、日本語では制定法と呼びます。そしてこの制定法が、経営者の皆さんに覚えていただきたいアメリカの2つ目の法源です。制定法には、例えばAmerican With Disabilities Act(ADA:障害を持つアメリカ人法)などがあり、連邦議会によって制定された法律は合衆国法典にてまとめられる事になります。

 

行政府:

大統領は、アメリカ合衆国の最高責任者であり、軍の最高司令官です。合衆国憲法は、大統領に行政権を付与していて、大統領と副大統領の下にある国防総省、司法省、労働省、財務省など15の省を中心とし、アメリカの法律の管理・執行に務めています。

法律をつくる権限は連邦議会に属しますが、議会が扱う立法の多くは行政府の主導によって起草されています。また、大統領は議会の法案に対し拒否権を発動することができます。この拒否権が行使された場合、議会両院で3分の2以上の多数決で拒否権が覆されないと法律は成立しないというように、大統領は立法権においても強い影響力をもっています。

また、大統領は、連邦議会の承認を得ずに、Executive Orders(大統領令)という連邦政府機関や軍に対する命令を発することができます。そして、この大統領令は、法律と同じ効力を持つということも覚えておいてください。

 

アメリカの行政府には、先ほどお話しした15の省に加えて、特定の分野を専門的に管理し、Administrative Regulations(行政規則)と呼ばれる専門的な法律を規定する多数の規制機関が存在します。例えば、ビザや永住権を取り扱う米国市民権・移民業務局(USCIS)。公正な証券取引を監視・監督するする米国証券取引委員会(SEC)。食品や医薬品を取り締まる食品医薬品局(FDA)。職場の安全を雇用主に義務付ける労働安全衛生庁(OSHA)などが、皆さんに馴染みの深い規制機関だと思います。この、規制機関がつくる法律、行政規則が、今日皆さんに知って欲しいアメリカ法源の3つ目となります。

 

司法府:

アメリカは、日本とは異なりコモンロー(判例法主義)の国となっています。アメリカのコモンローについては今後特集を組みたいと思っています。ですので、今回の動画では、司法の決定となるコモンローが4つ目のアメリカの法源である、という点を覚えておいて下さい。

 

え、アメリカは判例法主義っていうけど、制定法や行政規則もあるじゃないの、という指摘をしたくなる方もいるんじゃないでしょうか?それは、とてもナイスなツッコミで、皆さんと一緒に見てきた憲法、制定法、行政規則ですが、アメリカではこれらの法源は結構大雑把に書かれていることが多いのです。

 

ここが、日本のように法典の中で条文を具体的に定める制定法主義との違いです。例えば、先ほど挙げたADA(障害を持つアメリカ人法)には、合理的配慮の義務という概念が定められています。雇用主は、障害者にとって必要なサポートがあれば、それが過度な負担とならない範囲で合理的な便宜を図らなければならないとしています。ただ、ADAには、どのレベルが雇用主にとっての過度な負担なのか、というのが明確に定められていないのです。そこで、裁判所が目を向けるのが、過去の判例の蓄積となります。今、目の前にある問題と、過去の判例を比較して法律を見出す必要があるんですね。このように、制定法、行政規則に書かれた法律の内容の解釈をする、というのが司法府の役割、そしてアメリカのコモンローの仕組みです。

 

司法府にはもう一つとても重要な役割があります。それは法令や大統領令などが憲法に違反していないかを判断することです。もし違反している場合は、その法律を無効にする権限が司法府には与えられています。これをJudicial Review(違憲立法審査権)と言います。司法府による違憲立法審査権は、合衆国憲法で明文化されているのではなく、1803年の「マーベリー対マディソン事件」の判決によって示された権限となっています。

 

ざっとですが、連邦レベルでのアメリカの法源4つを皆さんと一緒に見てきました。まず、合衆国憲法、連邦議会による制定法、専門性の高い法律となる行政規則、そして司法の決定となるコモンローです。

 

この4つの法源ですが、それぞれ優劣(ヒエラルキー)の順番が決まっています。

 

4つの中で、一番重要な法律は国の最高法となる合衆国憲法です。その次に重要になる法律は、連邦議会の制定法となりますが、制定法は憲法に反する内容となってはいけません。4つの法源の中で3番目に重要になるのは、行政規則です。行政規則は連邦議会が制定する法律に反することはできない、という関係性になっています。そして、最後はコモンローという順番になります。ただ司法には違憲立法審査権というとてもパワフルな権限が付与されています。なので、順番的には4番目なのですが、制定法や行政規則が憲法に違反している場合、裁判所は法律を無効にすることができる、という4つの法源の関係性を覚えておきましょう。

 

ここまでかなりテクニカルな情報を見てきたのですが、残念ながらこれで終われないのが、アメリカの法制度のややこしさです。アメリカは、50の州からなる連邦制の国となっています。今皆さんと見てきた4つの法源がそれぞれの州にも存在します。ですので、連邦法と州法の関係性についても抑えておくことも重要となってきます。

 

まず、合衆国憲法第6条には「最高法規条項(Supremacy Clause)」というものがあります。連邦法は州法よりも優位性が認められることから、連邦法に反する州の法律の制定は禁止されています。他方、権利章典の修正第10条では、「本憲法によって合衆国に委任されておらず、また州に対して禁止されていない権限は、それぞれの州または人民に留保される」と規定しています。ですので、連邦法のない分野の統治権限は州が行使する事になります。また、州は連邦法を補強する形で法律の設定をすることも可能です。

 

例えば、ニューヨーク州には、The New York State Human Rights Law(NY州人権法)という法律があって、この法律の中で障害者の差別を禁止しています。先ほど見た、ADA(障害を持つアメリカ人法)とNY州人権法の法律が保護する「障害を持つ人」の定義を比較してみると、NY人権法はADAの定義がより保護範囲が広く設定されているのです。このように連邦法と州法の間で法律の違いがあった場合、州の法律が連邦法を補強している場合は、企業はより厳しい法律に従う事になります。ちなみに、ニューヨーク市にはThe New York City Human Rights Law(NY市人権法)というのもあって、NY市人権法とNY州人権法を比較してみると障害者を保護する範囲はNY市人権法の方が更に広くなっています。このように、市や郡などのローカルルールは州法よりも厳しいものとなっていることがあるので注意しましょう。

 

本日の動画で見たアメリカの法源をまとめてみると、このようなヒエラルキーになります。アメリカでビジネスをする経営者の方は、連邦と州に、それぞれ4つの法源があることを覚えておきましょう。

 

  1. 合衆国憲法

  2. 連邦制定法

  3. 連邦の行政規制

  4. 連邦のコモンロー

  5. 州の憲法

  6. 州の制定法

  7. 州の行政規制

  8. 州のコモンロー

 

ここまで見て、アメリカの法体制がとても複雑であることがわかっていただけたと思います。

実は、この複雑さが、アメリカが訴訟大国となる一つの原因となっているわけです。自分たちがビジネスをする上で、かかる法律が何であるかを探すのがとても大変。そして、法律の要件や効果が分かりにくいのが問題です。アメリカの弁護士が一つ、または二つに専門性を絞るのも、フォローする法律が多いというのが理由となります。

 

ただ、いろいろな人種、宗教、国籍など異なるバックグランドを持つ人達が生活するアメリカでは、法律こそが人々の共有価値観になっています。ビジネスをする上で意識していく、ということは大切になっていきます。

 

本日の動画が少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。

では、今日はこの辺で。

ご視聴ありがとうございました。