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アメリカ法律力 第4回
『アメリカの裁判制度』

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単一的な体系となっている日本の法律や裁判制度に比べ、アメリカは連邦制の国であり、連邦と州という二つのレベルの法律があります。それと同様に、裁判制度もアメリカは二元的な仕組みがとられていています。

法律の問題によっては、州の裁判所で解決できるものもあれば、連邦裁判所に行かなければならない問題もあります。また、同じ事件において州と連邦どちらの裁判所でも処理できる問題があったりと、アメリカの裁判制度はとても複雑でユニークなシステムとなっています。

アメリカ法律力 第4回『アメリカの裁判制度』
 

All OK Project、どうも、アメリカ弁護士の内藤です。よろしくお願いします。

本日の動画のテーマは、アメリカの裁判制度について解説をしていきます。

 

経営者の方が日本でビジネスをする際、裁判制度について意識することはあまりないと思います。それは、日本の法律や裁判制度が単一的な体系となっていて、目の前の法律問題をどの裁判所で解決するかに関して、複雑に考える必要がないからです。

 

他方、アメリカは連邦制の国です。以前アップした動画の「アメリカの法源」で、アメリカには連邦と州という二つのレベルの法律があることをお話しました。

 

それと同様に、裁判制度もアメリカは二元的な仕組みがとられていています。ざっくり言うと、50の州レベルと、1つの連邦レベル、合わせて51個の独立した裁判制度がアメリカには存在していると理解できるのです。法律の問題によっては、州の裁判所で解決できるものもあれば、連邦裁判所に行かなければならない問題もあります。また、同じ事件において州と連邦のどちらの裁判所でも処理できる問題があったりと、アメリカの裁判制度はとても複雑でユニークなシステムとなっています。

 

法律の解釈、また法律のトラブルに巻き込まれてそれに対応する際には、アメリカの裁判制度を理解しておくことが重要です。そこで、今回の動画では、アメリカでビジネスをする日本人経営者の方に知っておいてもらいたいアメリカの裁判制度の仕組みをまとめていきたいと思います。

 

では、まず連邦と州の裁判制度の概要を見てみましょう。

 

連邦裁判所では、上から、連邦最高裁判所(US Supreme Court)、連邦控訴裁判所(U.S. Court of Appeals)、連邦地方裁判所(US District Court)という形で、三審制度がとられています。

 

対して州の裁判制度は、各州が州憲法に従って自由に組織作りをしていくことができます。たとえば、州の裁判所も連邦裁判所と同様に、上から州最高裁判所、州控訴裁判所、そして州地裁という三重構造になっていることが基本なのですが、州の中には控訴裁判所の仕組みをなくして二審制を採用するところもあります。

 

また、裁判所の名称も州において自由な設定が可能です。たとえば、ニューヨーク州では三審制がとられていますが、上からCourt of Appeals、Appellate Division of Supreme Court、Supreme Courtとなっていて、英語表記の名前だけを見るとどれが最高裁判所でどれが下級裁判所であるか分からなくなります。

 

ニューヨーク州では、最高裁と訳することができる「Supreme Court」が同州における第一審裁判所となっているので、その名称に騙されないように注意しなければなりません。

 

 

連邦そして州の裁判制度の関係性のお話を少しすると、アメリカで提訴されるほとんどのケースは州裁判所で審理されています。ただし、法律問題の中には州の裁判所ではなく、連邦裁判所が独占的に取り扱う事件というものも存在します。たとえば、特許権・著作権に関する訴訟、連邦刑事法に関する事件や、Federal Question(連邦問題)と呼ばれ合衆国憲法や連邦制定法の解釈が求められる問題については、連邦裁判所が管轄権を有しています。

 

また、州の裁判所で起きる訴訟については、その裁判所が原告の地元であり、被告が他州から来たというケースであった場合、被告が不利な戦いを強いられる可能性があります。そこで、被告は、アウェイの地の戦いから生じる不利益な扱いを避けるために、州の裁判所よりも中立的な立場の連邦裁判所に事件を移管(Removal)させることがあります。

 

ただし、何でも間でもこのRemovalが成立する訳ではありません。Removalをする方法の一つとして挙げられるものに、Diversity Jurisdiction(州籍相違管轄)という概念があって、これは異なる州に住む原告と被告の間で起こる争いで、その事案が州がらみのものであってもその訴額が75,000ドルを超える場合、連邦裁判所に管轄権が認められるというものです。この様に、州の裁判所に比べて、連邦裁判所が審理するケースには制限があるということを是非覚えておいてください。

 

さて、連邦と州の裁判制度の概略を簡単に見てきましたが、次は、それぞれの裁判所がどの様な役割を果たすのか、特に連邦裁判所の機能についてもう少し詳しくみていきたいと思います。

 

1.連邦地方裁判所

ある問題が連邦裁判所で審理されるためには、先ほどお話しした連邦問題や州籍相違管轄といった要件をクリアし、連邦裁判所に管轄権が認められる必要があります。

 

そして連邦裁判所において、民事・刑事共に連邦レベルの第一審裁判所となるのが、US District Courtとなっています。

US District Courtは、各州に最低1つ、州によっては多くて4つの地区に裁判所が設置されていて、全米には94のUS District Courtが存在します。また、US District Courtの一部として、各州には連邦破産事件裁判所(US Bankruptcy Court)があり、また同時に、連邦租税裁判所(United States Tax Court)など特定の連邦問題の訴訟を処理するためにある特別的な裁判所も存在しています。

 

US District Courtの特徴として覚えておいてもらいたいのは、この裁判所は連邦レベルでの事実審裁判所であるという点です。要するに、民事裁判であれば被告に違法行為があったか否か、刑事裁判であれば被告は無罪または有罪かという事実関係の判断を行う場所となります。そして、この事実関係の判断は陪審員に委ねられることになります。

*合衆国憲法修正第6:刑事事件における陪審裁判の権利

*合衆国憲法修正第7:民事事件における陪審裁判の権利

陪審制度のシステム、または陪審制度の問題点については、「アメリカ法おススメMovie:12 Angry Men」の動画で解説していますので、是非参考にしてください。

ちなみに、後ほど解説しますが、US District Courtの判決に対する上訴では、事実関係の判断を再度行うのではなく、US District Courtの判断に誤りがあったか否かに重点が置かれることになります。

US District Courtでは陪審によるその判決に至るまで、事件に関する証拠の提出、専門家による法廷での証言、弁護士による証人尋問や、最終弁論など、ある意味エキサイティングな出来事が起こる場所です。なので、テレビやニュース、そして法律映画やドラマといったこところで皆さんがよく目にするのは、このUS District Courtの事件であったりします。

2. 連邦控訴裁判所

US District Courtの判決に不服がある場合、その上訴裁判所となるのがUS Court of Appealsです。全米が11のCircuit(巡回区)と呼ばれる地区に分けられていて、1つのCircuitに1つのCourt of Appeal[KS4] [KS5] [KS6] sが設置されています。また、このCourts of AppealsはワシントンDCにも設置されていますし、知的財産権や国際貿易の控訴事件など特定の法分野の控訴裁判所となるUnited Sates Court of Appeals for the Federal Circuit(CAFC:連邦巡回区)を合わせると全部で13存在することになります。

US Court of Appealsの主な機能としては、法律の解釈や裁判の手続きにおいてUS District Courtに誤りがなかったかの審理をし、誤りがあればUS District Courtの誤審の是正を行います。US Court of Appealsでは、訴訟当事者がUS District Courtの判決を破棄または維持すべきだと主張する意見書(ブリーフ)をまとめて、その後必要に応じて口頭弁論が行われることになります。そして、US District Courtの裁判記録、原告・被告のブリーフや口頭弁論の内容によって、ここでは陪審員ではなく3名の裁判官から構成される合議法廷によって正式審理がなされ判決が下される、という流れになっています。

 

US District Courtとは異なり、US Court of Appealsでは新しい証拠が提示されることもなく、証人尋問がされることもないため、比較的な地味な印象があります。しかし、US Court of Appealsの役割と機能はとても重要です。たとえば弁護士やロースクールの学生が勉強するのはこのレベルでの法律の解釈が主となっているからです。

 

また、「訴訟大国アメリカ前編・後編」でもお話ししていますが、たとえば民事訴訟事件ではUS District Courtにてトライアル(本審理)まで行くケースは全体の5%以下となっています。この数字から、US Court of Appealsに上訴されるケースの件数もとても少ないことがわかります。更に、この後説明する連邦最高裁判所は、裁量上訴制を採用しています。これは、上訴されるケースを取り上げるか否かに関する自由裁量を最高裁は有している、とこうことです。よって最高裁まで行くケースはかなり絞られ、US Court of Appealsが事実上の最終裁判所となっていると理解することができます。

 

 

3. 連邦最高裁判所

米国における最上位の上訴裁判所が、US Supreme Courtです。US Supreme Courtは、合衆国憲法や連邦法の解釈について最終的な判断を下す場所となっています。US Supreme Courtの裁判官は9人。他の裁判官はJudgeと呼ばれるなか、US Supreme Courtの裁判官はJusticeと敬称されています。

 

US Supreme Courtで再審理されるケースは、裁量上訴(Certiorari:サーシオレイライ)と呼ばれ、9人のうち4人の裁判官が取り扱うことに賛成すれば上訴が受理される仕組みです。裁判の当事者であるPetitioner(上告人)とRespondent(被上告人)は法的争点に関するブリーフ(意見書)をまとめて、その後、9人の裁判官の前での口頭弁論を行います。

 

この口頭弁論まで進むケースは、年間で申立てられる件数の1%にも満たないと言われています。US Supreme Courtの判決は過半数で決まります。

 

US Supreme Courtの判決には法廷意見書(Opinion of the Court)がまとめられますが、裁判官によっては、反対意見(Dissenting Opinion)や同意意見書(Concurring Opinion)を提出することがあり、これらはアメリカの法律を理解する上でとても大切な資料となります。

 

 

4.州の裁判制度

連邦レベルを見てきましたが、最後に州の裁判制度の特徴を簡単に解説していきたいと思います。

州の裁判制度は、独自の組織づくりをしているので、全く同じ制度というのは2つとありません。ただし、州の裁判所の役割や機能は連邦の裁判制度と同様に、陪審員によって事実関係の判断がなされる事実審裁判所が民事・刑事事件の窓口としてあり、その判断に対して誤りがないかを審査する中間控訴裁判所や、州における最終審裁判所となる州最高裁が存在することになります。

 

州の裁判制度の最大の特徴として、特に第一審裁判所のシステムが細分化されていることが挙げられます。たとえば、ニューヨーク州ではCounty Court(郡裁判所)と言って、ニューヨーク市以外の訴額$25,000以下の事件を扱う裁判所があります。ニューヨーク市内においては、Civil Court of the City of New York(ニューヨーク市民事裁判所)が訴額25,000ドル以下の事件を扱い、Criminal Court of the City of New York(ニューヨーク市刑事裁判所)が、Misdemeanorと言って懲役1年以下や罰金の対象となる軽犯罪事件を取り扱う形となっています。その他、少年少女事件や、遺産の管理など限定的な管轄権を有する裁判所も設置されています。

そして、アメリカで提起される多くの事件は、この様な各州の独自の裁判制度において判断されることになっています。

 

州の最高裁判所は、法律を解釈し上訴を審理する最終の場所です。たいていの州最高裁では、US Supreme Courtと同様に、裁量上訴制を基本としていますが、中間控訴裁判所がなく二審制を採用する州では、州最高裁または第一審裁判所であるTrial Courtが控訴事件の審理を行うことになります。州最高裁は、州における法律問題の最終判断の場所となりますが、取り扱う事件に連邦問題が含まれている場合は州最高裁からUS Supreme Courtに上訴することが可能となっています。

いかがだったでしょうか。アメリカの裁判制度が日本と比較していかに複雑でユニークなシステムであるかをご理解いただけたと思います。経営者の皆さんがニュースなどでアメリカの裁判に関する記事を見たとき、「あ、これはDistrict Courtの案件なので、連邦法に関する問題または異なる州に住む当事者の争いだな」と考える。また州の裁判所に関する記事であれば、「州の最高裁の話題だが、連邦問題に関して議論されているのでUS Supreme Courtに上訴されるかもしれない」と言った様に、裁判所の名前を見ただけで皆さんのアンテナがピンとくる、そうなれば幸いです。

 

関連動画も、ぜひ、ご覧ください。

では、今日はこの辺で。ご視聴ありがとうございました。

 

 

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