アメリカ法律力 第5回
『Subject Matter Jurisdiction
​裁判における事物管轄権』

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アメリカでは、連邦裁判所と州の裁判所という2つのレベルの裁判所が存在します。連邦・州のそれぞれの裁判所には、担当できる訴訟・できない訴訟の権限が定められていて、この裁判権の範囲がSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)です。アメリカにおいて、裁判を有効に進める上でSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)は欠かせない要素となります。

アメリカ法律力 第5回『Subject Matter Jurisdiction​裁判における事物管轄権』
 

All OK Project、どうも、アメリカ弁護士の内藤です。よろしくお願いします。

本日の動画は、Subject Matter Jurisdiction(事物管轄権)について解説をしていきます。

 

アメリカの裁判制度」と「法律英語シリーズ(第3回)」の動画と併せて、是非、今日の動画を見ていただければと思います。 

始める前に一言、言わせていただくと、今日のテーマはまぁ難しいです!

図や画像を使ってできるだけ簡単に、経営者の皆さんが知っておくべきSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)のエッセンスをまとめていくつもりですが、それでもテクニカルな内容となるので、今日はぜひ、覚悟して聞いていただければと思います!

 

アメリカでは、連邦裁判所と州の裁判所という2つのレベルの裁判所が存在します。連邦・州のそれぞれの裁判所には、担当できる訴訟・できない訴訟の権限が定められていて、この裁判権の範囲が今日解説するSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)です。

 

たとえば、州の裁判所のみで審理できる訴訟を、原告が誤って連邦裁判所で訴えてしまった場合、連邦裁判所はこの訴訟を担当するためのSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)を有していないことから、この訴えは却下されることになります。

 

または、ある訴訟を原告が州で提訴したとします。州の裁判所というのは、時に訴えを起こした原告に有利で被告には不利なケースとなることがあります。その場合、被告は、連邦裁判所がその訴訟を担当するためのSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)を有しているかを確認する必要があります。

 

もし連邦裁判所にSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)があれば、被告は不利な州の裁判所からより中立な立場を取る連邦裁判所に、この訴訟を移管(Removal)させることができるんです。

 

このように、裁判を有効に進める上でSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)は欠かせない要素となります。

 

連邦裁判所と州の裁判所のSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)の違い:

ここで、連邦裁判所と州の裁判所のSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)の違いについて、少し触れておきたいと思います。

州の裁判所は「Almost Unlimited Jurisdiction」と呼ばれていて、契約から相続の問題まで数多くの訴訟を取り扱うことができます。よって、Subject Matter Jurisdiction(事物管轄権)のある・なしが州の裁判所で問題になることはあまりありません。

 

他方、連邦裁判所は「Limited Jurisdiction」と呼ばれていて、州の裁判所とは異なり何でもかんでも訴訟を担当できるわけではありません(アメリカ憲法第3編)。ある訴訟に対して、連邦裁判所がSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)を有するには大きく分けて2つの条件があり、そのどちらかをクリアする必要があるのです。

 

今お話しした2つの条件とは、Federal Question(連邦問題の管轄権)と、Diversity Jurisdiction(州籍相違管轄権)です。

では、ここからは、この2つの条件について詳しく見ていきましょう。

 

連邦裁判所がSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)を有しているか否かを判断する上で、まずは、Federal Question(連邦問題の管轄権)の分析を行います。その際、確認することは、

連邦裁判所で訴えられているこの訴訟は合衆国憲法や連邦制定法などの連邦法を基礎としているか、です。

 

もし答えがNoの場合、もう一つの条件であるDiversity Jurisdictionをクリアすることができなければ、連邦裁判所ではこの訴訟は担当できない、ということになります。

 

 

他方、答えがYesの場合、連邦裁判所は、その訴訟を裁くためのSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)を有している、ということになります。

連邦法を基礎としている訴訟については、連邦裁判所に審理する権限が与えられていて、この権限のことをFederal Question(連邦問題の管轄権)といっています。

 

次に2つ目の条件であるDiversity Jurisdictionについて、解説してきます。

連邦問題の管轄権の条件がクリアできない場合は、Diversity Jurisdiction(州籍相違管轄権)の分析を行うことになります。

 

Diversity Jurisdiction州籍相違管轄権とは、異なる州または国に住む原告と被告の間で起こる争いで、その争いの訴額が75,000ドルを超える場合、連邦裁判所にSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)が認められるというものです。

 

Diversity Jurisdictionでまず確認するのは、訴訟の当事者である原告と被告の法定住所が、完全に異なっているか、ということ。これをComplete Diversity(完全な州籍相違)といいます。

 

ちなみに、個人と法人では法定住所の定義が異なります。

個人の法定住所は居住地のある場所です。

対して法人の法定住所は、会社が設立された州と会社のPrincipal Place of Business、会社の意思決定がなされる場所となっています。

会社が設立された州とPrincipal Place of Businessの州が異なる場合は、法人は2つの州に法定住所を持つことになります。この点は重要なので覚えておいてください。

 

原告と被告の間にComplete Diversityがない場合は、連邦裁判所にはSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)がなく、この訴訟は州の裁判所で審理されることになります。

 

Complete Diversityが存在する場合は、その訴訟の訴額が75,000ドル以上であるかを確認します。75,000ドル以上であれば、連邦裁判所にSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)が認められることになりますが、75,000ドル以下となってしまうと、この訴訟は州の裁判所が担当するケースとなります。

 

ちなみに、日本企業がアメリカで直接訴えられる訴訟については、異なる州と国の当事者間での争いであり、日本企業が巻き込まれる争いの場合、訴額が75,000ドル以下となるケースは少ないので、このDiversity Jurisdictionによって連邦裁判所にSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)が認められることが一般的です。

 

最後に、連邦裁判所がSMJを有する訴訟は、二つの種類に分類することができます。

 

一つ目は、Exclusive Jurisdiction(専属管轄権)と呼ばれていて、連邦裁判所のみが担当できる訴訟です。たとえば、特許権や著作権は連邦法であり、その解釈は州ではなく連邦裁判所によって行わなければなりません。

 

二つ目は、Concurrent Jurisdiction(競合管轄権)といって、連邦と州の裁判所のいずれにおいても審理できる訴訟となります。

例えば、商標権は、特許権や著作権同様に連邦法(ランハム法)により保護されているのですが、商標権の訴訟は連邦裁判所の専属管轄とは考えられていないため、州の裁判所でも担当できる事件となっています。同じ知的財産権なのに、商標権だけ扱いが異なるところが、面白いというか、アメリカ裁判制度の複雑なところでもあります。

 

また、Diversity Jurisdictionによって連邦裁判所にSubject Matter Jurisdiction(事物管轄権)が認められる訴訟についても、Concurrent Jurisdictionとなります。

 

Concurrent Jurisdictionの訴訟の場合、被告はAwayの地での不利な戦いは避けたいので、基本的には州の裁判所ではなく連邦裁判所での戦いを目指すことになります。

 

ほかにも、Supplemental Jurisdiction(付加管轄権)と呼ばれるものがありますが、こちらに関しては今後、私の以下のブログの方で解説をしていますので、ご覧ください。

 

いかがでしたでしょうか?けっこう複雑な話でしたよね。

Subject Matter Jurisdiction(事物管轄権)は、訴訟をする、または訴えられた場合、先ほど述べたRemovalなどの作戦を行うときには重要な概念となってきます。Subject Matter Jurisdiction(事物管轄権)のような訴訟の手続きに関する戦いは、ある程度弁護士に任せることにはなるものの、皆さんが弁護士と有効に連携する上では、Subject Matter Jurisdiction(事物管轄権)に対してある程度のリーガルセンスが必要となります。弁護士と有効な連携をすることは、弁護士費用のセーブにもつがってきます。そういう意味でも、今日の動画が皆さんの予備知識となれば幸いです。

 

関連動画も、ぜひ、ご覧ください。

では、今日はこの辺で。ご視聴ありがとうございました。