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アメリカの年齢差別と定年退職制度に関する洞察

2024年4月18日、Jackson LewisのLori D. Baue弁護士とScott Ruygrok弁護士を招いて、知っておこう(STOK)セミナー第12回「アメリカの年齢差別と定年退職制度」を開催しました。


企業戦略法務プログラムにご参加の企業の方々には、本セミナーの録画をいつでもご覧頂けるように共有していますので、こちらをご覧ください。

*パスワードは顧問契約をされている方に、別途メールでお送りしています。












また、戦略法務プログラムへの加入をご検討の方は、こちらのページでサービスの概要をご覧ください。











以下は、本セミナーの内容を、私なりにまとめた洞察です。


日本では当たり前となっている「定年退職制度」は、英語だとinvoluntary retirementと呼ばれ、アメリカでは「年齢に対する差別」となり禁止されています。年齢差別を禁止する法律として最も重要なのが、the Age Discrimination Employment Act (ADEA)という連邦法で、同法は、「40歳以上」の個人に対し、年齢を理由とする雇用に関する差別を禁止しています。ちなみに、この法律は20人以上の従業員を有している会社に適用される法律です。


ADEAは連邦法ですが、州法においても、年齢差別を禁止する法律は定められており、差別禁止法については、州法が連邦法を補強し、より厳しい規定となっていることが一般的です。たとえば、ADEAは「40歳以上」の個人に対する差別を禁止していますが、NY州の州法では「18歳以上」の個人に対する年齢差別を禁止しています。


この様に、ADEAや州の年齢差別禁止法においては、正当な理由(特定のケースに限る)がない場合、「定年退職制度」は年齢における差別であると判断され、禁止されます。


ちなみに、定年退職制度が容認される例外のケースとしては、public safety employee(公共安全従業員:警察官、保安官、消防士など)に対して、定年退職をさせることは合法とされています。


もう1つの例外としては、involutaryではなくvolunatary retirementであれば、雇用主が従業員に早期退職をさせることが法律上認められています。


Volunatary retirementでは、インセンティブ(対価やベネフィット)を渡すことが主ですが、問題は、volunatary retirementが本当にvolunatary(日本語)であるのか、です。


たとえば、インセンティブを受けて退職するか、それとも解雇・降格か、という2つの選択肢を迫られる場合、これはvoluntaryとは言えません。また、早期退職を会社に勧められ、それを受け入れなかったことで会社に居づらくなる環境となり、その結果、退職をするといったケースなどもvoluntaryとは言えません。これはvoluntaryと見せかけて、従業員を退職に追い込むケースで、constructive dicharge(強制的退職)と呼ばれます。constructive dichargeでは、不当解雇として従業員が雇い主を訴えることができます。


対価を払って、早期退職を則すことは合法です。しかし、その早期退職がconstructive dicharge(強制的退職)にあたらないかどうかの分析をしっかりとする必要があります。


もう1つ重要なのは、サーベランスです。これは退職金(悪く言えば手切れ金)を雇用主が支払うことで、従業員に権利主張放棄(訴える権利を放棄)をさせることを目的としています。要するに、サーベランスは、雇用関係を終了する前にサインされる契約で、雇用関係が終了したあとに雇用主が従業員に差別などで訴えられる可能性を軽減するためのものです。


サーベランス契約を見ると、必ずADEAと州法の年齢差別禁止法における訴え(権利主張)を放棄する項目が書かれているはずです。

そして、ADEAの権利放棄をさせる際には、とても重要な注意点があります。それは、the Older Workers Benefit Protection Act (OWBPA:高齢勤労者給付保障法)の規定に従って、権利放棄をさせなければならない、ということです。このOWBPAの規定では、まずは権利放棄は「書面」で交わされなければなりません。また、訴えるという従業員とって大切な権利を放棄させるため、その権利放棄の効果がどういったものかをしっかりと理解するよう、弁護士に相談するよう促すことが求められています。


また、OWBPAには必ず守らなければならない2つの要件があります。まずは、権利放棄には少なくとも「21日間」の考慮期間を与えなければなりません。つまり、「3日後に持ってこい」などは言えないのです。これは、十分な考慮期間を与えることで、弁護士に相談しやすくさせることが目的です。


もう1つは、必ずクールオフ期間を与えなければならないことです。これは権利放棄の書面にサインをしたあとに、「7日間」は、従業員が権利放棄を取りやめることができる、というものです。


上記の2つ(21日間の考慮期間とクールオフ期間)の要件は、早期退職・自主退職をする従業員の年齢が40歳以上の場合、サーベランス契約に必ず入れなければならないことを、覚えておきましょう。



Moses Singer弁護士

内藤博久



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