ブランドづくりを考える、(NFLクラブ)ワシントン・レッドスキンズの教訓(後編):強制されたリブランディングの失敗
- hnaito9
- 2 日前
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危機管理で始まった2段階の混乱
前回の記事(前編)で見たように、ワシントン・フットボールチーム(現コマンダーズ)は、長年の抵抗の末、スポンサーからの経済的圧力という最終的なトリガーによって、名称・ロゴの変更を余儀なくされました。
この「リアクティブ(受動的)、または強制的な変更」は、ブランド戦略として最も避けるべき混乱した2段階プロセスを生み出すことになります。
フェーズ1:レッドスキンズからWFTへ(危機管理と空白)
2020年7月、チームは蔑称の廃止を決定し、ロゴも引退させました。しかし、この決定は強制的なものであったため、チームは恒久的な新名称を事前に準備していませんでした。そこで、一時的かつジェネリックな「Washington Football Team(WFT)」という名称を採用することになります。
これは、危機管理が求められる状況下においては、正しい措置であったと考えられます。スポンサーの要求に応え、人種差別的な商標を迅速に市場から除去することを第一する必要があったからです。しかし、この暫定的なWFTという名称は、長期的に強力なブランドを持つこと、そして効果的に商標登録(一般的記述名称なので識別力がない)ができない名称であったことから、「空白の期間」を意味することになってしまいます。
混乱・問題ポイント:ブランド・ナラティブの基板の損失。危機管理を優先し、識別力のない名称(極めて記述的であり、商標法上の「識別力(Distincitiveness)」が非常に弱いため、権利化できない)を暫定的なチーム名として選んだことで、「なぜこの名前なのか?」といったファンの期待や想像力を満たすためのストーリーがなく、物語の空白を生じさせました。
フェーズ2:WFTからコマンダーズへ(不評のリブランディング)
暫定期間の後、チームは恒久的なアイデンティティを確立する必要がありました。そして、商標登録が可能で、ブランド・ナラティブ(物語)を構築できる名称として選ばれたのが「コマンダーズ(Commanders)」です。
チームの公式な選定理由は、「首都ワシントンD.C.の軍事、奉仕、リーダーシップとの繋がり」を強調することでした。しかし、この名称はファン投票で人気の高かった「レッドウルヴス」などが商標の壁(先行商標権の存在)や法的な問題で却下された後に決定されたため、多くのファンから「平凡でインスピレーションに欠ける」と批判されることになります。
混乱・問題ポイント:商標権の早期取得の失敗から、ファンに人気の名称「レッドウルブス」が使えず、そのことで商標的にもっとも安全(先行商標権との衝突リスクが低く、迅速な登録・使用開始が可能)な「コマンダーズ」を恒久的チーム名として選択することになります。しかし、その結果、感情的なブランド・エクイティを大きく損なう結果となっています。
ワシントン・フットボールチーム(現コマンダーズ)が経験した2段階の改名プロセスは、危機管理の即時性とブランド構築の長期戦略のギャップが招いた混乱であり、ブランド価値を大きく毀損する結果となりました。
名称認知度 | ブランド資産 | ブランド物語 | |
レッドスキンズ | 極めて高いが、悪名である | 高いが、有害 | 数十年の歴史 |
コマンダーズ | 低い、平凡 | 低いが、クリーン | 再構築、スキャンダル、強制的変更 |
→ もう少し良いスタートができたのではないか??
対照的なケーススタディ:クリーブランド・ガーディアンズ
同じくネイティブ・アメリカンに関連する名称(インディアンズ)とロゴ(チーフ・ワフー)を変更した、MLB(野球)のクリーブランド・ガーディアンズ(旧インディアンズ)は、ワシントン・コマンダーズと対照的に、リブランディングの評価は高いものとなっています。
クリーブランドは、まず最も問題視されていた人種差別的なマスコット「チーフ・ワフー」を段階的に廃止し、次に時間をかけてファンとの対話をしながら、新名称を選ぶことになります。要するに、コマンダーズとは異なり、段階的かつプロアクティブな変更だったといえます。
そして、新名称「ガーディアンズ」は、地元のランドマーク(ホープ・メモリアル橋の交通の守護者像)にちなんでおり、地域に根ざした意味を持たせることに成功しました。
【教訓】「コマンダーズ」という新名称がファンに不評だった一因は、そのプロセスが透明性に欠け、長年のファンの意見が反映されていないと感じられたことです。リブランディングは、単なるデザインの変更ではありません。商標法上の問題がない(高い識別力、保護管理が行いやすいなど)か、地域や顧客に愛着を持たせる物語があるか、そして新しいブランドを浸透させるための予算と一貫した展開計画がマッチしているかなどが成功の鍵となります。
最終結論:勝利こそが、失われたブランド資産を取り戻す唯一の処方箋
ワシントン・コマンダーズの事例は、倫理観に反する商標と、プロアクティブな商標戦略の欠如が、いかにブランドに深刻なダメージを与えるかを示したケースです。
「コマンダーズ」のブランドが今後、ファンとの絆を取り戻し、失われたブランドを再構築する唯一の方法は、新しい名称の下で一貫して勝利を収めることだと思います。フィールド上の成功が、ブランドの新しい物語を定義し、過去の混乱を上書きしていくことになるわけです。個人的には、ワシントンのチームはとても好きだったので、せっかくのリブランディングのチャンスが、”ごたごた劇場”みたいになってしまったのがとても残念です。
この記事を読んで、「皆さんの会社の商標は変化する社会の中で、今、何を意味しているでしょうか?」を考えていただけると嬉しいです。
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