内部通報制度が不正防止の最強ツールである3つの理由
- All ok Project

- 10月9日
- 読了時間: 5分
「内部通報」や「ホットライン」と聞くと、「密告」「告げ口」または「クレームの増大」といったネガティブなイメージを抱く方が多いかもしれません。しかし、これは大きな誤解です。

内部通報(Whistleblowing)制度の真の機能は、組織を内側から蝕む違法行為や非倫理的な腐敗から守り、企業的・人的な損害を未然に防ぐといった、強力なリスク管理ツールとなっているところです。
グローバル展開する企業にとって、内部通報制度の整備は、本社から遠く離れた海外子会社のリスク管理をするための、もはや不可欠なインフラといえます。不正が生じた際、裁判所や当局、契約パートナーが最初に問うのは、「なぜ不正を早期に発見できなかったのか?」という問いであり、その答えを持たない組織が受けるダメージは甚大です。
そこで、内部通報制度を導入すべき決定的な理由を、リーガルリスク(法的側面)と企業価値(宣伝的側面)の観点から3つにまとめてみました。
理由1:組織の不正行為は、内部からの「声」で最も多く発見される
内部通報が企業に与える最も有用な影響は、その圧倒的な不正発見率に現れています。
不正の発見源のトップ: 職業詐欺調査士協会(ACFE)の調査(Report to the Nations, 2022)によると、企業内で発生する不正行為の42%以上が「通報(Tips)」によって発見されており、これは監査や内部統制といった他の手段を大きく引き離す最大の発見ルートです。
従業員の重要性: ACFEのレポートによると、これらの通報の半分以上は、企業の従業員からのものとなっていて、ホットラインなどの仕組みの重要性が伺えます。
発見スピードへの影響: ホットラインを導入している企業は、そうでない企業に比べ、不正を発見するまでの期間が短く、結果として不正による金銭的ダメージを最小限に抑えることができるというデータも示されています。
ACFEのレポートはこちら:https://legacy.acfe.com/report-to-the-nations/2022/
このレポートが示唆するのは、「従業員に不正を報告するよう促す仕組み」と「Speak Up文化の醸成」こそが、最も効果的な不正防止策であるということです。従業員が報復を恐れることなく情報を提供できるように、匿名性が確保された安全なチャネル(ホットライン)の導入が、組織の抗不正プログラムの成否を握っています。
理由2:海外子会社のリスク管理、そして「責任の証明」にホットラインは不可欠
本社から地理的・文化的に遠い海外子会社は、本社による監督の目が届きにくく、不正が生じるリスクが高い「ブラックボックス」となりがちです。
監査の限界: 現地への監査や巡回訪問は莫大な時間とコストがかかり、不正の度に実行することは非現実的です。
情報の意図的な遮断: 不正を働く当事者は、本社に不都合な情報が上がらないよう、現地の従業員に対して情報の伝達を意図的に遮断しているケースが多々あります。
駐在員の板挟み: 駐在員が不正の調査・是正を試みても、現地スタッフとの間に監視されているという緊張感が生まれ、組織が分断されてしまうリスクがあります。
グローバル対応のホットラインは、これらの子会社特有の課題を克服し、遠隔地にあるリスクにも本社が「監視の目」を届かせるための有効なチャネルとなります。
また、不正が生じた際、米国司法省(DOJ)などの当局や裁判所は、「グローバルな不正を発見・防止するための合理的な努力を尽くしていたか?」を厳しく評価します。子会社をカバーするホットラインの存在は、本社が責任ある監督を怠っていなかったことを証明する、とても強力な法的防御(リーガルシールド)となります。
理由3:不正の早期発見は、企業ビジョン達成を加速させる「防衛策」
世界的な大手企業でさえ、不正や非倫理的な行為に関するスキャンダルに見舞われ、その深刻な影響が浮き彫りになっています。
欧州の大手自動車メーカー: ディーゼル車の排ガスに関する不正問題。巨額の罰金に加え、「環境にやさしい」と掲げていたブランドの信頼性が完全に失墜しました。
米国の大手金融機関: 従業員がノルマ達成のために顧客へ無断で多数の口座を開設。組織文化の腐敗が露呈し、企業イメージに深刻なダメージを与えました。
米国の航空機メーカー: 旅客機の設計・製造における安全性軽視の問題が発覚。技術的信頼だけでなく、組織の安全文化に対する疑念を世界中に広げました。
不正や非倫理的な行動は、金銭的な損失に留まらず、訴訟や危機対応に追われることで、経営層や優秀な人材の注意力を本来追求すべきビジョンやミッションから逸脱させてしまいます。
内部通報制度は、組織の価値観に反する行動を早期に明るみに出すことで、経営層に軌道修正の機会を与えてくれます。社員が「この会社は不正を許さない」というメッセージを実感できれば、組織の求心力が高まり、経営陣のリーダーシップのもと本来のビジョン達成に向けて全員が足並みを揃えることができるわけです。
内部通報の件数が増えることは、組織が健全に機能し、企業価値を守り、成長を加速させるための防衛策として機能している証拠です。 貴社も、この不正防止の最強ツールであるホットラインの導入を、今こそご検討ください。
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ちなみに、サブスク記事では以下のチャートを中心に詳しく説明をしています。

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